前潟都窪の日記

2005年10月10日(月) 縁日の金魚鉢 5

5.

キューピット化粧品会社から田代光一の使っていた訪問先リストを貰ってきた青山刑事は印のついているお客から一つずつ訪問して聞き込みをして歩いた。
 田代光一のお客は何れも中流以上の家庭の主婦が多かった。子供達が小学校の高学年か中学生になって、やっと煩わしい育児から解放された年代の主婦達であった。子供を学校へ送り出し、夫を勤めに出した後、手持ち無沙汰をもてあましている主婦が田代光一のお客には多かった。

 夫は会社では中間管理職として夜の帰りが遅く、日曜祭日には接待ゴルフで家にいないことが多く、子供達は子供達で学校から帰ると学習塾へでかけてしまう。心の中に何となく空白が出来、盛りを過ぎかけた女としての自分を毎日の生活に感じ始めた年配の主婦達は、言葉巧みな化粧品の売り込みに手もなく引っかかっていた。
「いや、奥様はまだお若いですよ。これからですよ」
「奥様は美人の上に、家庭を切り回していらっしゃる主婦としての貫祿と、母としての賢さが滲み出ていらっしゃる。そういう方にこそキューピット化粧品は向いているのです」という売り込みの文句に、最初は退屈凌ぎにからかい半分応対していたのだが、いつの間にか田代の固定客にされていたのである。
 聞き込みに廻った青山刑事に警察手帳を見せられて、何を勘違いしたのか「刑事さん主人にだけは内緒にしておいて下さいね。後生だからお願いします。田代さんとのことが主人にばれたら離婚されてしまいますもの」と哀願する主婦もあり、青山刑事の失笑う買った。

 田代光一は夫にも子供にも相手にされなくなり、毎日の生活に退屈しきっている主婦達の心の空白を巧みに衝いて情事の相手役をつとめながら、化粧品の売り込みを続けてきたことが浮かび上がってきた。
 田代光一のリストに二重丸のついしいるお客は五人ほどあったが、これは肉体関係を結ぶに至ったもので、青山刑事から田代が殺されたことを聞かされると、殺人の嫌疑をかけられることよりも浮気が夫に知られることの方を恐れ、密会の場所を素直に教えた。この種の女のアリバイ調査には青山刑事も神経を使った。田代光一殺しの犯人を探し出すのが目的であり、家庭騒動を巻き起こすのが目的ではないと自分の心に言い聞かせながら。

 一重丸のついていた者は十人ほどいたが、お茶に誘ったり,ボーリングに行ったりした程度の関係であった。アリバイ調査は気骨の折れる聞き込みであったが、顧客リストに名前の載っている主婦達には、田代光一が殺された日のアリバイは何れも成立した。また、田代光一を殺さなければならない程の動機を持つ者は見いだせなかった。

 田代光一の生前からの交遊関係からは、プレイボーイ振りが浮かびあがった。しかし、相手の女性も遊びと割り切っており、キューピット化粧品の社長が言っていたように、遊びをセールスにうまく利用している点は流石であった。特に痴情のもつれとか、三角関係などという問題が浮かび上がってこないので、この面から田代殺しの犯人を捜し出すことは困難ではないかと予想された。
    

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