前潟都窪の日記

2005年10月16日(日) 縁日の金魚鉢10

10.
                         
 渋谷中央署の田代光一殺人事件の捜査本部では、謎の人物ミスターXの正体を探りだそうと刑事達が懸命の聞き込みを続けていたが、めぼしい手掛かりは得られず、捜査員達に焦りの色が出始めていた。
 田所刑事は、初動捜査において現場の観察に何か見落としがあったのではないかと思い故人の霊前に線香を供えるという口実で、田代の遺骨が引き取られた実家を訪問することにした。

 富士山麓の静かな町に田代の両親は健在だった。
「刑事さん。よく来て下さいました。あの子は女運に恵まれず不幸な子でした」頭髪に白いものが目立つ老母は、目に涙を浮かべながら、田所刑事を仏壇へ導いた。線香を供えて仏前に額づいてから田所刑事は田代の遺品をもう一度見せて貰えないかと頼んだ。
「ええ、いいですとも。是非見て下さい。一日も早く犯人を捕まえて下さいよ、刑事さん。あの子の荷物はそっくりそのままあの子が学生の頃勉強していた部屋に置いてありますから」                    旧家らしく、広い庭の母屋の隣りに離れ座敷があり、花園マンションから運んできた田代光一の遺品が置かれていた。
 田所刑事は、本棚からアルバムを取り出してページをめくってみた。アルバムは学生時代のスナップ写真集4冊と新婚生活時代のものらしい写真集3冊にはいずれも一葉ずつ丁寧に脚注がつけられていた。

 田所刑事がアルバムを見ていて興味を持ったのは、車の写真が沢山貼ってあることだった。田代自身が運転していたり田代の妻が運転していたり夫婦で車の前に立っていたりした。中には、車だけを写真にしているものもあった。そして色々な車種のあることが田所の注意を引いた。田代は車にかなり興味を持っていたことが窺えた。
 書棚には新聞の切り抜き帳が置いてあった。スクラップブックにも車をテーマにした記事の切り抜きが多く貼ってあった。新車の発売ニュース、モデルチェンジの記事、車をテーマとした随筆、日本の車が地球一周ドライブをした記事が目についた。相当車に興味を持っているなと思いながらページを繰っていた田所刑事はあるページで目をとめた。そこには異質の記事が貼ってあったからである。

 京浜銀行横浜支店のお客が銀行帰りに車に追突され、車を乗り逃げされたうえ,現金を強奪されたという記事であった。車をテーマにした記事の中でもこの記事だけが趣味娯楽のカテゴリーに入らない犯罪に関係するものであるところに異質性が認められた。自動車に興味を持っていた男と自動車を利用した犯罪、何か関係がありそうであった。この記事が田代の死とどう結びつくか検討はつかなかったが、捜査の手掛かりにはなりそうに思えた。

 田所刑事はスクラップ記事を何度も読み返しながら、幾つかの推理を試みた。
『もし田代が記事に出ている追突乗り逃げ事件の犯人だとした場合には、被害者の天川啓吉にしろ佐藤浩にしろ、田代を憎いと思うだろう。田代を捕まえたら警察べ突き出すなり、盗られた金を取り返すことを考えるだろう。何らかの方法で田代が犯人であるということを突き止め、田代と金を取り返す交渉をしていて話がもつれ、殺してしまったとしたらどうだろう。しかし,この場合殺してしまうほどの動機にはなりにくい。それでは田代が乗り逃げ事件の犯人を知っていて、犯人をゆすっていたとしたらどうだろうか。このときには、犯人は田代を殺そうと考えても不自然ではないな』

 田代光一の実家からの帰路、田所刑事は天川啓吉を訪ねて質問をした。
「天川さん。この写真の男に見覚えはありませんか」
「さあ、見たことがありませんなあ」天川は写真を何度も見てから言った。    

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