高島屋で各階の売り場を覗きながら八階のミレー展会場へ辿りつくと押すな押すなの人混みで、熱気と人いきれでムンムンしている。やっとの思いで入場券を手にして会場へ入ってみると、群衆の肩越しにしか、絵を見ることができない程の混みようである。 田園風景を背景に配し、働く農夫達を描きだしたミレーの絵は叙情豊かであり、雑踏を忘れて画面の中に没入させてくれる。
出口近くに羊飼いの少女と題する1870年作の絵が掲げられている。 この絵の下にはバビロンの幽囚というもう一枚の絵が隠されておりx線撮影の結果、そのことが発見されたらしい。
羊飼いの少女の絵の傍らにはx線で撮影したバビロンの幽囚の写真が展示されている。一度描きあげた絵だが、ミレーの意に沿わない出来ばえであったため、塗り潰されて羊飼いの少女の絵に生まれ変わったものであろう。 バビロンの幽囚は構図だけは判るが、その色調までは判らない。どのような色の絵だったのだろうかと想像を巡らせてみる。
このようにx線撮影の結果、下絵に異なったもう一枚の絵が隠されていた例は、7年前のダナエ展の時もそうであったことをふと思い出した。
下に塗り潰されて日の目をみなかったもう一人のダナエの恨みが、あの日父の魂を呼び寄せたのではないかと当時、何の脈絡もなくふと思ったものである。
遠くネブカドサネザル二世に捕らえられ、異国の地へ幽囚の身となったユダヤ人達の怨念は陽光を見ることなく、また数百年絵の下に隠されたのであろうか。そんな思いに耽りながら、ミレーの絵の鑑賞を終え、出口の方へ歩を進めたとき、吉川の目に止まったのは、あの黒衣の女であった。何時の間に忍びよったのか吉川の隣で熱心にx線写真で撮影されたバビロンの幽囚を見ているのである。
吉川は背筋に寒けを感じて、早々に会場を飛び出して雑踏へ逃れ、家路を急いだ。
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