■裏切りも何もかも、ただ愛しているからこそ■
■春暉■
僕の主・咲楽(さくら)には肉親という者の存在が薄い。 別に親兄弟がいないわけではない。と云うか、居るのに一緒に過ごすことはない。
何故ならそれは僕の主にして深界を裁く者であるからだ。 僕・草薙は、僕自身の思惑とは裏腹にそれこそとんでもない力を有しているらしい。と云うか、その力があるからこそ、深界を裁くことが出来るのだが。 ただその力が主となった存在を、陽の方向に進ませること適わなく、思わず陰の方向へと転じることがあるらしい。陰の方向へと進んだ者は地界を破滅へと導く――。 らしいとしか、僕には言えないんだけれど……。 過去、どれだけ僕の主となった者が僕を手にする以前に滅せられたか、僕自身は知ることはない。 だけれど、それだけ僕の主となる者は負担と重荷と重圧を強いられる事となるのだ。謂われもない中傷と、差別とも、蔑みを。 だから草薙の主となる子供を持つ親は大概子供を捨てることになる。 捨てるならまだしも、殺してしまう親もいる。 何故にそれが草薙の主であるのかわかるのは、それが双子であるが故。 一族の双子は必ずどんなときにも一組しか産まれてこない。 先代の主が死に絶えた後に産まれる双子。それこそが次の主となるべき存在。 そして何故に草薙の主を捨てることはおろか殺すのかと言えば、双子のもう一人、対となる存在が“天叢雲”の主であるから。 天叢雲は僕・草薙とは違い、常に陽の性質を持ちまた空界を導くと云う使命をおびているから。 深界とは違い、空界とは天為る存在にも近い者。 だからこそ、親や、一族は草薙の主となる者を許せないでいる。 僕にしてみれば、どうにもそれは人間の傲慢にしか思えない。 何がどう、人を陰の方向へ向かわせるのか。 それはきっと、その人間の育った環境や受けた影響によるものが多いと思う。 慈しみ、愛していれば曲がりなりにも陰の方向へと向かうことはないはずだ。 向かおうとするときに、何かがきっと止めるはずだ。 なのに、それ以前に蔑みや侮蔑などを与えていれば、陽の方向へと向かうことの方が難しいであろうに。
主・咲楽はそれ故にいつも一人だ。
「おおーい。なぁに、ひたってんのかな? 草薙くんは」
ぼ、僕が真面目に主について語っているのにそれを横から茶々入れするのはっっ! 僕が一番で居るはずの主の側に何故だかべったりと張り付いているお邪魔虫・その1使役鬼の黒曜っ。 滅茶苦茶大人な格好して、悪くもないのにカタチだけの眼鏡を掛けて当たり前のように僕と主の仲を裂く、にっくき存在。
「んん? 咲楽がいつも一人? そんなこと有るわけないだろ。俺が赤ん坊の頃から愛情を持って常に側で育て上げてるんだから」
「ちょっと! 一人でって事はないでしょう。アタシだって咲楽が生まれたときから常に傍らで寄り添うように愛情と、慈しみを持って育て上げてきたわよぉ?」
そぉお言ってもう一人割り込んできたのはお邪魔虫2号・使役鬼の紅黎! こっちはこっちで妖艶としか言えない大人な女性の容姿と、知識というか経験を持っていて、僕は到底だって適わない(泣!) 何なんだよ。僕が一人で咲楽のことを語っちゃ悪いって言うのかよ!
「紅黎、俺だって咲楽には愛情と慈しみと厳しさを持って育て上げてきたぞ。っと、おいおい草薙。別に咲楽のことを語るのは悪くないさ。だけどな、咲楽が常に一人だったて云うことは大間違いだって知っておけ」
「黒曜? アタシは咲楽に愛情と慈しみと厳しさと慈愛を持って育ててきたわよ。……そうね草薙、語ること自体がどうこうって話じゃないわ。咲楽はいつだって愛されて生きているのよ。それを間違えないで頂戴」
…………そんなこと言われなくたって知っているさ。 僕が常に主から受け取る感情は慈愛と慈悲。そして強さと輝きなんだから。
「おい紅黎。慈愛は愛情と慈しみと同じ言葉だぞ」
「あら?」
それでも、本当は僕が産まれたときから咲楽とともにいれたのなら、決して家族からの愛情を失わせないようにしたのに。 …………だめか、僕という存在こそが咲楽に負担を強いているんだから。
「ねぇ! 三人して何してるん? あれ草薙落ち込んでるの? ってか神剣でも落ち込むん? ……ちょっとそれは困るわね、神剣ってんだからこうもっと、でーん、と構えていてくんないとさっ。で、何三人で話してたん?」
落ち込むなって、構えてろって……。しかも‘でーん’って何さ(笑)
「あぁ、咲楽が常に一人じゃないって事を確認しあってたんだよ。俺たちがいつだって愛しているって事をな」
「そうよ。それを如何に愛しているのかを自慢しあっていたのよ、アタシ達は」
黒曜も紅黎も僕の落ち込み具合を上手く誤魔化してくれている?
「ふぅん。で、じゃぁつまり草薙の落ち込み具合は二人よりも私に関する愛情のバロメーターがたんなくて腐っていた、と云うわけね!」
…………結局ばれてる。ってか、誤魔化したわけじゃないのか。やっぱり。 僕だって時間じゃ負けてるけれど、二人には負けない愛を持ってるんだからね!
「やぁね、知ってるわよそんなこと。馬鹿みたいに自慢しあうこともないでしょ? 私自身を見てくれていれば、そんなこと測る必要だってないことくらい。 ねぇ、草薙。私を信じてよ。私は決してこの地界を破滅に導かないわ。だって、この世界は私にとっても優しいもの。私はこの世界を愛しているもの。私はこの世界を失いたくないもの」
そう僕に言ったときの、主の笑顔はとても綺麗だった。 慈愛と慈悲。強さと優しさ。そして哀しみを知っている眼差しだった。
僕はこの時、初めて咲楽を主ではなく一人の人間の女の子なんだと認識した。
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●なんとなく?続いてみた。 当初の思惑とはもうかけ離れているが、それはそれで構わないや!と。 だって、軌道修正しても始まらないし(え?)ってかね。下書き無しの一発打ちだとその時の自分の感情が、一番に影響してくるもので(笑)
登場人物の読み方他(今更)
僕こと草薙:くさなぎ・三種の神器の一つ本性は剣。主を持つと実体(人間体)を保てるようになる。
主こと咲楽:さくら・草薙の剣の鞘の役割を持つ。深界(妖魔や鬼などの世界)の罪を裁く使命をおびている。
使役鬼・黒曜:こくよう・咲楽を守護する鬼。もちろん深界の存在ではあるけれど、咲楽を主として契約している。咲楽との関係は契約以上の深い絆を持つ。
使役鬼・紅黎:くれい・黒曜と同様の守護鬼。どちらかと云えば咲楽の母親的存在でもある。本性は実は鬼子母神だったり。
●慈愛と慈悲。 最近、身近で結婚やら出産の話題が多いので。 愛情とは薄れていったり無くなってしまったりしないものだと思いたいのです。私がね。 愛情の種類は、年月とともに移っていくものはあると思うのですよ。 始めの、結婚するときの愛情と何十年と連れ添った夫婦の愛情とは種類が違うとね。長年連れ添ってこそ生まれる愛情ってものもあると思うし。 情熱ってより、情愛って感じになるのかな?いや、解んないんだけれど。 またね、子供に対する愛情だって色んなものがあるでしょうし。 愛せない親だっているかもしれないし。 それでもね、信じたい、と思うのは嘘ではないのですよ(照笑)
●さぁ、明日から二日間はバイトお休みです! なのでッ。改装と、新作と、風葬〜、頑張りますデスよ!!(笑)
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