初日 最新 目次 MAIL HOME


I'LL BE COMIN' BACK FOR MORE
kai
MAIL
HOME

2025年04月04日(金)
折坂悠太『のこされた者のワルツ』

折坂悠太『のこされた者のワルツ』@NHKホール

重奏+弦楽四重奏の11人編成。NHKホールで二部構成、ご本人「衣裳チェンジなんて始めて…」なんて仰ってましたがいや〜素晴らしかった 折坂悠太『のこされた者のワルツ』

[image or embed]

— kai (@flower-lens.bsky.social) Apr 5, 2025 at 1:36

「衣裳チェンジなんて始めて…」→「衣裳チェンジなんて初めて…」です。

-----
折坂悠太(Vocal, Guitar)
senoo ricky(Drums)
宮田あずみ(Contrabass)
山内弘太(Electric Guitar)
ハラナツコ(Sax, Flute)
yatchi(Piano)
宮坂遼太郎(Percussion)
波多野敦子(1st Violin, string arrangements)
鈴木絵由子(2nd Violin)
角谷奈緒子(Viola)
巌裕美子(Cello)
-----


---
「のこされた者のワルツ」に寄せて。

逃げ惑う足。あきらめた顔。
沈みゆく船の上で演奏する音楽隊。悴む手で、今出せる音を奏でた。
それらを見送って、私は生きのこった。
ただ今この時を生きていることを、骨のずいから理解する日が、また来るだろうか。
もう波に溶けてしまったものや、水面に映るその人に、今日も挨拶をしよう。
それでもやっぱ、せっかくなら、明るい顔で。

折坂悠太
---
昨年秋にチケットをとってから5ヶ月くらいだろうか。その間、折坂さんが出したこのコメントがずっと心の隅にあった。

フェスやイヴェント等で拝聴し、その度畏怖すら感じる程圧倒されていた。なかなか日程が合わず、ようやくワンマン。普段(?)のライヴとは異なる趣向で、折坂さん自身過去最大規模の公演だったそうだ。ストリングスアレンジが施されたアコースティックな音像を、NHKホールが柔らかく繊細に響かせる。素晴らしい公演だった。衣裳替えもありました(微笑)。

幕間15分の二部構成。アンコールの流れも素敵で、実質三部といってもいいかな。演奏と歌唱、そして詩の朗読(ポエトリーリーディングというより朗読と書きたい)。折坂さんはアコースティックギターとマンドリンを使い分け、伸びやかなあの声(あの声!)を遠く迄届ける。ときにはマラカス等のちいさなパーカッションを手に、丸腰で(丸腰いうな)唄う。序盤の演奏には少し緊張感が漂っていたが、それは「これだけ大きな会場で繊細なアレンジが届くだろうか」という心配から来るものだったように思う。そしてそれは杞憂だった。演者だけでなく、観客の集中度も高かった。針一本落としても三階席迄聴こえるのではないかという静けさと、演奏が終わる度沸き起こる雨のような拍手。これからどうしたらいいんだろうと途方に暮れる、「見送って」「生きのこった」人々が集ったかのようだった。使い古された言葉かも知れないが、まるで方舟に乗り合わせたかのような。

今回のライヴの告知にタイタニック号の音楽隊を連想するテキストがあったけど、それこそギャビン・ブライヤーズの『タイタニック号の沈没』を思わせる弦楽アレンジがあってジーンと来たりしていた。思い込みかな

[image or embed]

— kai (@flower-lens.bsky.social) Apr 5, 2025 at 1:36

波多野さんによるストリングスのアレンジは、楽曲そのものから曲間のブリッジに至る迄、不穏なハーモニーがあちこちに配置されていた。にも関わらず、不思議と安らぎも覚える。やはり連想してしまうのはギャビン・ブライヤーズなのだった。死の淵は恐ろしく、そして苦しい。しかし死そのものには安息だけがある。そうであってほしいだけかも知れない。エレクトリックの楽器は山内さんのギターだけだったが、リヴァーブを効かせ、テルミンの音かと錯覚するようなスライドバーを効果的に使った「揺れ」と「震え」を内包するロングトーンは、規則的であり乍らひとつとして同じものはない。寄せては返す波、いかようにも形を変える水のようだった。だからあらゆる層の観客の心にするりと沁み渡り、集中を促すことが出来たのだろう。

ここに来れば安心ですよ、なんてイージーなことはいわない。いずれ方舟からは出なければならない。鳩がオリーブの枝を咥えて戻ってくる迄の時間、少しの休息を。そんなときに流れている音楽のようにも思えた。

アンコールは比較的リラックス、笑顔も増え、今月から『みんなのうた』でオンエアされている「やまんばマンボ」を披露。NHKホールで『みんなのうた』なんて絶好のシチュエーションでにっこり。楽しい曲だけど歌詞はちょっぴりさびしくて、マンボといえばの「ウッ!」という掛け声も陽性に振り切れない感じがなんとも不思議な魅力。優しさに溢れたマンボ。

物販の告知がもどかしいようで、「こういう話(宣伝)をしたい訳ではないんですけど……」といったあとハッとしたように「いや、だいじなことですっ。どれもいいものなんです、一生懸命つくったんですっ。気に入ってるんですっ」とフォローを入れたのがおかしかった。人柄が滲み出ている。ショウビズの世界で生きるのはたいへんそうだなあと感じてしまうが、それでも誠実に音をつくり、グッズをつくり、いいものを届けたいという思いはきちんと伝わる。バンド、スタッフ、家族に謝意を述べたあと、「ここにいるひとも、いないひとも、これからのひともこれまでのひとも良い春にしましょう!」という言葉に、このひとの姿勢が表れているように感じた。とてもいい時間だった。

(「やまんばマンボ」のことは書いちゃったけど、セットリストは大阪公演終了後に発表されたら転載しようかな)

-----


このヴィジュアルも印象的だった。心構えというと大袈裟かも知れないが、どんなライヴになるのかのガイドになった

NHKホール行ったのすごい久しぶりだったなー。帰宅後調べてみたら『東京バレエ団創立50周年記念 祝祭ガラ』以来、11年ぶりだった。代々木公園でデングウイルスを持つ蚊が発見されて、閉鎖された公園を横目に会場に着いたのでした