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kai
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2025年06月21日(土) ■ |
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『脱走』 |
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『脱走』@新宿ピカデリー シアター2
南極好きにはキエーとなるエピソードあり。でも私のひいきはスコット隊なんだ…そんでやっぱいちばん凄いのはシャクルトンだと思うんだ……(そういえば映画化の話どうなった) こういうのをエンタメとして見せる韓国の胆力よ 『脱走』
[image or embed] — kai (@flower-lens.bsky.social) Jun 21, 2025 at 19:44
スコットは軍人としては立派だが規律と研究を重んじたが故に隊を全滅させ、シャクルトンは時間はかかったが部下全員と生還した“史上最強のリーダー”。でもスコット隊は研究のための試料採取とかやることいっぱいあったんだよ! 極点到達だけが使命じゃなかったんだよ! と本編と関係ないことを熱く語ってしまう。
未開の地と自分の可能性を追求し続けたアムンセン。彼の功績は、自由と未来を自分で切り拓こうとする主人公の目標そのものだったんだ。
原題『탈주(脱走)』、英題『Escape』。2024年、イ・ジョンピル監督作品。2017年に、数十発の銃弾を浴び乍らも走って国境を越えた北朝鮮兵士がモデルのようです。所謂「脱北」ルートは中国経由の陸路か船を使った海路というのが通常のところ、軍事境界線を突破するとは。しかも軍人が(というかこのエリアに入れるのは軍関係者しかいないだろうが)。という珍しいケース。
退役を間近に控えたギュナムは南へ亡命するべく綿密な計画を立て、準備万端で実行の機会を窺っている。心の支えは南のラジオ番組とアムンセンの伝記本。しかし想定外のことが次々と起きる。ギュナムの計画に勘付いた部下が自分も連れていってほしいといいだし、そこへ国家安全保衛省の幹部となった幼馴染みのヒョンサンが絡んでくる。国境迄は約2km、地雷だらけの草原をギュナムが駆ける。ヒョンサンが追う。捕まれば間違いなく処刑されるギュナム、逃せば相当の処罰が待っているヒョンサン、逃げる者も追う者も命懸け。
ホンも演出も巧くて気が休まらないシーンの連続。映画館では他の観客の緊張感もバリバリ伝わってくるのでカラダがガチガチになりました。終盤のあのシーン、あちこちから「あっ」「きゃっ」と悲鳴が漏れてた。あれは声出るわ。地雷、軍事境界線にある電話の使い方も巧いし、伝記本、方位磁石、ラジオ、ペンダントといった小物にまつわるエピソードもエモい。反面、あのひととかあのひとたちはどうなったの!? てのもそこそこある。確かに主人公視点だとその後のことは知らんとなるが、観客としては流浪民の皆どうなったのよ〜! 無事でいてくれよ〜! と祈るばかりだよ……。
あまりにも話運びが巧いので、観ている側もそれに乗っちゃう訳です。ゲームっぽいとでもいおうか、小道具だけでなく人物も「アイテム」にされている感じがする。キャラクターの戯画化も際立っている。音楽をやっていたヒョンサンの耳がめちゃいいというのもゲームキャラクターにおけるLv値のようだし、ってそもそもヒョンサンの登場シーンとかあまりにもキャラ立ってて笑ってしまったもんね。めくるめく男と男の愛憎っぷりもすごくて、めっちゃつかこうへいの芝居を思い出してしまった。男と男の距離が近い! 顔が近い! つか作品好きなひとに是非観てほしいわ〜(ヘンな勧め方)。
すごく「よく出来ている」んです。観ているうちに「面白がってていいのか……?」となんとなく後ろめたくなってくる。南北分断はエンタメ業界からすれば格好の素材でもある訳ですが、一歩間違えばプロパガンダになる可能性がある。『宝くじの不時着』くらいになるとコメディとして屈託なく笑えるし、ホントにそうだったらいいのにねえくらいに思うけど……とモヤモヤしていた終盤、ギュナムとヒョンサンのやり取りにハッとさせられる。
亡命した国が果たして理想郷かは判らない、幸せに暮らせるかなんて判らない。ギュナムの目的はそこではない。彼はあくまで「失敗出来る」「挑戦して、失敗して、また挑戦出来る」ことを目指しているのだ。『不思議の国の数学者』でもそうだったが、南に亡命した数学者は最終的にドイツに渡る。南で全てが叶えられる訳ではない。自国の問題も反映しつつ、しかし「ここから挑戦出来る可能性はある」と伝える。「失敗してこい」は、ギュナムにとっては希望、ヒョンサンにとっては絶望の言葉だ。
夢を叶えようともがくギュナムと、夢を諦めたヒョンサン。家族が皆亡くなっているギュナムと、(おそらく)ゲイであることを隠して(おそらく)政略結婚し、もうすぐ子どもも生まれるヒョンサン。人生で幾度かある選択の末、家族と体制に縛られてしまったヒョンサンは“脱走”の道を失っている。こういうところも周到なホンだった。運命の分かれ道はどこだったのだろう。南北分断という問題から、夢を叶える若者の物語を生み出した1980年生まれの監督に瞠目し、同時にジェネレーションギャップも感じたのでした。
走る姿の美しいギュナムにイ・ジェフン。表情と仕草で語るヒョンサンにク・ギョファン。演技合戦も見応えありました。あのあとヒョンサンどうなったのかなあ……。
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マックィーンの『大脱走』とかは戦争終わってるからああいう終わり方でもはーてなるけどこっちはまだ終わってないからなあ。やるせないものがある。それにしてもクギョファンのツラ構えよ(サインかわいい) ああクギョファンよクギョファンよ
[image or embed] — kai (@flower-lens.bsky.social) Jun 21, 2025 at 19:45
ク・ギョファンいいよね〜、舞台挨拶行きたかったよ〜(残業確定曜日だったため断念)
・脱走┃輝国山人の韓国映画 いつもお世話になっております。ソン・ウミンのこと「リ・ヒョンサンの元恋人」と明記されている。まあどう見てもそうだわな。しかしおまえそんなにじっとりした目で見つめるなよ! 誰かが携帯見たらどうすんだよ、「かつて愛した犬野郎」てあからさますぎるだろう! と、ふたりともこっちが心配になる程脇が甘い。せつない
・[コラム] 朝鮮戦争停戦から71年…映画『脱走』があぶり出す南北の若者の‘今’(徐台教)┃Yahoo!ニュース 徐台教さんによるコラム。本国での宣伝バナー画像には少なからず驚いた。日本での宣伝が「止まったら、即死亡──」とかいうコピーで「ゲーム感覚なのか……?」と引っかかったんだけど、本国でもそういう感じだったんだなあ。 この映画を観た翌日、『情熱大陸』で金原ひとみが朝吹真理子と韓国に取材旅行へ行き、南北境界線付近で有刺鉄線がグッズとして売られていることに驚く様子が流れていた。歴史をエンタメとして消費する強かさと後ろめたさ。一筋縄ではいかない歴史
・以前チョコレートケーキが上演した『ライン(国境)の向こう』を思い出したりもしました。戦後日本が北と南に分断されていたらという話。地続きの国境がない島国でも、こうなる可能性があった
・余談、ギュナムがラジオで南の放送を受信して方角を探るシーンを観て思い出したこと。ウチの田舎では、ラジオで半島(南か北かはわからんが、まあ位置からして南かな)の放送が聴けた。間に熊本がある宮崎でそうなのだから、対馬海峡に面している長崎ではもっと、かなり鮮明に聴こえるんだろうな。てか長崎は半島が見える距離だもんね、天気いいと(修学旅行のとき見た憶え)。南北分断はそれくらい近いところで起こっていることなのだ
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