初日 最新 目次 MAIL HOME


I'LL BE COMIN' BACK FOR MORE
kai
MAIL
HOME

2025年09月13日(土)
『ライフ・イン・ザ・シアター』

シス・カンパニー『ライフ・イン・ザ・シアター』@IMM THEATER

舞台に生きる人生と、舞台を生きる人生。衰える記憶力と体力、観客の前に立つことの恐怖、観客を前にして沸き上がる感謝。役者が役者を演じる怖さに身が縮む思い。それでも舞台はやめられない 『ライフ・イン・ザ・シアター』

[image or embed]

— kai (@flower-lens.bsky.social) Sep 14, 2025 at 1:16

角野卓造さんや、先日お亡くなりになった吉行和子さんが、ある時期を境に舞台をスパッと辞めて映像のみの芝居に移行した(おふたりとも理由を公表してらした)ことを思い出してしみじみ。でも、演じることはずっと続けられる。そして、芝居を長く続けていると、堤さんのようにジョンとロバート両方を演じられるときがやってくる。素敵なことだな。

……とはいうものの、役者として生きるとはそんな美しいことだけではない訳で。デヴィッド・マメットの辛辣さは、残酷といってもいいくらい容赦がない。

若手のジョンとベテランロバートが、劇場で過ごす長い時間。演劇の世界に入ったばかりで、尊敬する先輩役者の演劇論に目を輝かせ首肯するばかりだったジョンが、やがてその言葉に疑問を持ち、タメ口を聞くようになってくる。一方ロバートは自身の衰えを自覚しつつ、ボヤき乍らも、引き際を見失っている。ふたりが舞台に立ち続けるのは、演じることが大好きだからでもなく、演じることに取り憑かれている訳でもなく、ただ生きる糧(食べるため)としてのようでもある。彼らは終演後一緒に呑みに行っても、ケンカした後でも、同じ舞台に立ち続ける。イライラし乍ら。やれやれといったテイで。

そうでいて、彼らは観客のどよめきと笑いを恐れ、拍手に感謝する。舞台に立つことでしか得られない幸福を知っている。

厳しいのは、映像作品のオーディションに受かり主役級の仕事を得たらしいジョンが、次のシーンでもやはり舞台を続け、最後にはロバートに金を借りるようになっていることだ。ロバートもそれに嫌味をいう訳でもなく、いつものことだという風情で金を貸してやる。映像の世界で名を馳せ、舞台に“帰ってきた”訳ではない、と見せつけるいやらしさ。ずっと「舞台は下積み」という風潮には乗れないのだが、それでも「儲からない」という事実を否定しきれないことが切ない。

今回の演出家である水田伸生は、主にテレビで活躍されている方。こういった人選すら皮肉に映って興味深い。そもそもマメット本人も、映画『郵便配達は二度ベルを鳴らす』や『アンタッチャブル』といった名作の書き手だ。舞台はあの(あの! といってしまう)『オレアナ』や、『エドモンド』といった皮肉に満ちた作品が多い印象。日本で上演された作品は3作しか知らないが……他の作品ってある?

そんな脚本と演出により、舞台役者を演じるのは堤真一と中村倫也。おふたりとも舞台と映像両方の世界で活躍しているのがちょっとした救い……と思うのは観客の勝手だな。何をして成功というのだろう。今作の登場人物の悲哀は、全ての舞台役者が演じられる筈だ。

舞台設定は劇場の地下にある楽屋。階段を上がった先に舞台が設えられている。役者たちは楽屋で言葉を交わし、準備が出来ると舞台中の舞台へと上がっていく。観客は作中の舞台に出演する彼らを背後から見守る。うまくいった日は軽やかに、冴えなかった日は足取り重く楽屋へと帰ってくる彼らを、複雑な心境で見つめることになる。松井るみによる装置が素敵。それにしても衣裳替えの多いこと! 何作も演じるからね、やってる方混乱しそうだな〜。でもふたりとも段取り数の多さでは群を抜く劇団⭐︎新感線に出演してるから! きっと大丈夫! ……といいつつも、アドリブなのかアクシデントなのかの境目が怪しいところもちらほら(笑)。それが面白さに繋がってしまうのもこの作品の恐ろしいところ。台詞がもにゃもにゃとなった片方に「何?」とニヤニヤして聞き返すもう片方、出トチりならぬハケトチりっぽい箇所があったところにも笑わせてもらいました。本人たちは冷や汗ものだったかも知れないが。

フランス革命であったり、南北戦争であったり、恐らく実際にある舞台作品が再現されているのだろうシーンが次々と出てくる。台詞は勿論、衣裳や小道具でどの作品かわかるよな? とでもいうような目配せも感じ、観客も試されてるわ……と恐怖に震える。もしかしたら全部架空の作品なのかも知れず、それならそれで「あ〜わかんないだ〜」ってニヤニヤされてるみたいで、マメットこええ〜となるのだった。全方位に厳しい作品でした。

-----

IMM THEATER初めて行きました。東京ドームシティのエリア内に新設された劇場なんですね〜ってか当日迄TOKYO DOME CITY HALLが改名したのだと思っていた。着いたらTDCホールはKanadevia Hallという名に変わっており、ウルトラマンショー(?)の入場開始したところで長蛇の列が出来ていた。ネーミングライツ制さあ〜ほんっと混乱するからやめてくれよ! そしてIMM THEATERどこ! めちゃめちゃ焦ったよ……(近くにあった)。

で、IMM THEATER。昔の赤坂ACTシアターを思い出すロビーの狭さと導線でまあ入口の混雑がすごい。しかしトイレの数はめっさあって長い行列でも待ち時間は少ない。客席の視界はとてもよかったです。