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2025年09月23日(火)
東京バレエ団『M』楽日

東京バレエ団『M』@東京文化会館 大ホール

しばしのお別れ、次は5年後か10年後か? 「待ちましょう」、また会えるといいな 東京バレエ団『M』楽日

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— kai (@flower-lens.bsky.social) Sep 23, 2025 at 20:02

今回は神奈川公演がないので(今ホールがないもんね…)東京全公演観たかったな……。スケジュール的に無理だったんだけど。てか私、これで改修前の東京文化会館最後になるかも? ベジャール作品観るのは確実に最後だ。寂しい。

あっという間に千秋楽、イチ〜シと少年以外はほぼ初役かな。何度観ても新しい発見がある。振付は勿論のこと、美術、衣裳、音楽、何もかもが見どころあり過ぎる。ベジャールの空間認識力と色彩感覚の凄み、演出家としての凄み。そしてそれを見事に具現化するバレエ団。個々のダンサーの魅力、目を瞠る群舞の美しさ、瞬きする時間も惜しい。

ベジャールの作品は、その独特な振付もそうだが、“余白”の使い方が恐ろしい。ダンサーの肉体を虚飾なく見せるためか。ほぼ裸舞台、音楽も全くない状態でイチ、ニ、サン、シをありったけ踊らせ、直後に長い時間ポーズをとらせる。あれだけ踊ったあとなのでダンサーたちの息は上がり、肩や腹筋がどうしても動く。静まり返った客席からは、堪える息が漏れ聴こえ、汗で光る肌が見える。人間の身体はこうも美しいものか。三島由紀夫が言葉を駆使して描写した肉体の美を、ベジャールとダンサーたちは言葉を一切使わず数秒で表現してしまう。劣情をもよおすどころか、ただただその美しさに見惚れてしまうエロティシズム。実存というものの強さ。「バレエはただバレエであればよい。雲のやうに美しく、風のやうにさわやかであればよい。人間の姿態の最上の美しい瞬間の羅列であればよい。人間が神の姿に近づく証明であればよい。」と書いていた三島が観たらさぞや喜ぶだろう、いや、悔しがるだろうか、なんてことも考える。

対する聖セバスチャンのソロはあくまでも軽やか。何しろ美の象徴、しかし踊るのは実存するダンサー。大塚卓の聖セバスチャンは現れただけでハッとするような、場が明るくなるような、光のような聖セバスチャンだった。シと対峙するとき、少年が離れていってしまうときに見せる陰も魅力的で、強くも儚いいのちの輝き(というとミャクミャクになってしまうが)を感じさせる存在感。弓を投げたり受け取ったりする所作も危なげない。

危なげないといえば池本祥真。踊りに関しては安定と信頼の池本さん、なのだが、というのもこの役、踊る以外にもやることがいっぱいあるのだ。衣装の早替えもそうだし、マジックもやらねばならないし、黒板に字も書かねばならない(笑)。だが、ヒヤリとするところが全くなかった。それにしても、本当に池本さんは凄かったな……祖母がもう祖母なのよ。何をいっているのか。いや、初演に比べるととにかく祖母が全然違ったのだ。背中の曲がり具合、ゆっくりとした歩き方、少年に寄り添い遠くを見やる仕草。所作のひとつひとつが死に近い、死を間近に控えた人間のそれだった。そんな祖母が、死の世界に活き活きと生きる“シ”に変身する鮮やかさ。少年を死の世界に迎え入れたあとの歓喜、慈しみ、そしてやっぱりこちらに来てしまったかとでもいうような退屈さ……全てが凝縮されたかのようなあの表情、あの仕草。池本さんのシが観られることは本当に幸せだ。

鹿鳴館パートが興味深い。祖母は勧められたドレスを断るが、楽しそうにダンスをする人々を笑顔で少年に指し示す。その延長線上で少年に銃を渡し、撃たせる。ここでの祖母はおそらく朝子の役割なのだが、西洋文化を拒否する女性たちを、ひとりの男性のバレエダンサーが演じているという矛盾に面白さを感じた。

そしてこの矛盾は、自決のシーンにも繋がっていく。実際には修羅場でしかなかったであろう三島の最期は、このシーンに直結するものではないように思う。あれは死の場面であると同時に、死ぬ迄懸命に「生きた」ことの尊さを表現したものではなかったか。光に溢れ、桜が舞う。一生を走り抜いたことへの労いすら感じるあの明るさは、実際の事件とは切り離されているように感じる。三島由紀夫の一生をこうも美しく描けたのは、あの日を異国から見やったベジャールだからこそ出来たことなのかもしれないと思った。そしてベジャールは、最後に三島作品の登場人物たちが集う場面を用意した。生きる者も、死んだ者も、皆いつかどこかでまた会える。少年は起き上がり、彼らのもとへ走っていく……。命の賛歌は、こうして幕を閉じるのだ。

三島由紀夫の、いや、どの人間でも、その人格は多面的で複雑なもの。一面化することは出来ない。初日の感想にも書いたが、この作品の一部だけが拡大解釈されることなく、上演され続ける平和な世の中が続くことを願っている。

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この日のカーテンコールは感動的だった。池本さんもようやく笑顔に。そして何度目かのコールで、少年役の岩崎巧見がひとり緞帳前に現れた。綺麗なレヴェランスを見せたあと、所在なさげに緞帳の奥を覗く。出てきた笑顔の池本さんが両手を広げて迎える………あんなん親御さん泣いちゃうよ。それにしても岩崎さんは大役を堂々と務めたな。思えば今作、当日パンフレットでは少年役がトップクレジットなのだ。イチ〜シとともに聖セバスチャンのソロを見守るシーンでは、長い時間微動だにしなかった。正座して扇を拡げる迄の時間もとても長いし、その後倒れて最後に駆け出す迄の時間は更に長い。素人は足痺れてない? 大丈夫? なんて思ってしまう。見事だった。三島が観たらさぞや以下同。

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ほら、笑顔(涙)。東バのinsta、画像も動画もいっぱい載せてくれてます





飯田宗孝さん(2022年死去)だ……(涙)





2日目の画像、なかよしイチ、ニ、サン、シ(にっこり)。綺麗に身長順にもなってる

今回の宣美は横尾さんじゃないのねと思ったけど、5年前のキャストがほぼ揃っているから舞台写真使えていいですよね。横尾さんは横尾さんで11月の『MISHIMA』で舞台美術をやるんだよなあ、気になる…

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— kai (@flower-lens.bsky.social) Sep 23, 2025 at 20:06

平日一回きりなのよね。しかもこれ、映画『MISHIMA』とのその音楽フィリップ・グラスがモチーフなんだよ〜日本公開出来ないやつ! ちなみに映画での美術は石岡瑛子!
(20251001追記)
とかいってたら『MISHIMA』の上映が決まってビックリ。今のところ東京国際映画祭のみなんだけど、一般公開あるかな? 遺族の許可出たんかな…或いは権利者が変わったか……