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2025年09月21日(日)
SPC 28th Anniversary event / 29th Anniversary Special Session 高橋徹也クインテット『異郷』

SPC 28th Anniversary event / 29th Anniversary Special Session 高橋徹也クインテット『異郷』@Star Pine's Cafe

ちょっと軽々しくは書けない内容だったな……久々バンドセット、そしてお初の編成。どジャズから(アシッ)ドジャズ迄演奏はそりゃもう凄まじかった、特別な夜になった

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— kai (@flower-lens.bsky.social) Sep 21, 2025 at 23:51

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高橋徹也(vo, g)、鹿島達也(b)、坂田学(dr, electronics)、松本健一(ts, fl)、山本隆二(key)
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高橋さんのデビュー29年/SPCオープン28年のアニバーサリーシリーズ、今年は『ある種の熱』レコーディングメンバー+坂田さんのクインテット初お披露目。一夜限りのセッションとのことだが、既にまたの機会を待っている。高橋さんご本人には今後のプランがあるのかもしれないが、「来年30周年だけど何をやるかは考えていない」「音楽を続けるかもわからない」的なことをうそぶいてもいたのでなんとも。同時に音楽に対する愛情と情熱も口にしていたし、新作のレコーディングも始めているので彼が音楽を手放すとは思えないが。

数年前から高橋、鹿島、坂田のトリオはセッションが続いていたのだが、観られずにいた。というのもこのトリオのライヴが開催される440、コロナ時期から基本スマチケオンリーになってしまったのよね…当方スマホなしおなのでな……以前はiPadでもスマチケ使えたのに! 高畠俊太郎や松竹谷清はバンド受付があって助かった。当日券を狙えばいいんだけど、前売り確保出来ない時点で気力が尽きる+他の予定入れちゃうからな。意志が弱い。

という訳でようやく観られた高橋さんの後ろに控える坂田さん。いやー強い、っょぃゎ。フィルが巻き舌! ズタッじゃなくてドゥルタッ! 巻き舌でグルーヴ! スウィングもビバップも、レギュラーグリップでズバズバ繰り出してくる。

えっここでシンバル入れるん? てとこあったけど、それが既存の楽曲の新しい顔を引き出してくる。シビれた。「夜明け前のブルース」の走らせ方、鳥肌ものだったな……。対する高橋さんのギターも強い。ヴォーカルの入るジャズアレンジというと、ギターは柔らかい/丸い音なのが常套だが、高橋さんは金属的ともいえる硬質な音でカッティングを繰り出してくる。これは新鮮、かつ攻めたアプローチに感じた。声も安定していてじっくり聴けた。高音で倍音が出ているよう。つくづく類稀な声だ、と感じる。

鹿島さんはアコースティックとエレクトリックのベースを使い分ける通常運転だが、リハのセッションから生まれたであろう新しいフレーズがいくつも聴けた。松本さんはスポットで出入りするのかなと思っていたが、テナーサックスとフルートで全曲に絡む。山本さんは寡聞につき『ある種の熱』以外の仕事を存じ上げず、ライヴで聴くのも初めてだった。エレピとシンセでバッキングからソロからめちゃめちゃ格好よかった。そう、ソロ! 「夏の出口」のアウトロとか最高だった! そして個人的に『ある種の熱』といえば「惑星」なので、あのピアノのイントロが聴こえてきた時点でブワー泣きましたよね(上田禎さんのことを思い出したというのもある。「上田さん、アルバムってどうやって作るんですか……!」)。弱ってる。

それにしても「赤いカーテン」のアレンジがアシッドジャズのそれで歓喜。いや音源でもそうなんだけど、今回のクインテットにこんなに似合うかー! マーチのようなスネアなんだけどこれがまた巻き舌でえれえグルーヴを生んでいた。ハイハットの裏打ちもシンセの入れ方もめっちゃアシッドのそれ! たまらん! 最高!

もともと『ある種の熱』はジャズやボサノヴァ要素のある作品。とはいうものの、菊地成孔の言葉を借りれば、高橋さんのつくるものは「ジャンルミュージックにお手本がな」い。手前味噌だが、以前『小林建樹と高橋徹也、と菊地成孔の話』で高橋さんの作曲手法は“野生の思考”によるものでは? と書いたのだが、少し前にご本人が「自分は音楽の理論的な部分についてほとんど知らない。ある時期からは意識的に無知でいることを選択してる。それでも長く多くの曲を作ってこれたのは聴いてきた膨大なレコードと本のおかげ。その断片を自分なりの解釈で曲にしているだけだと思う。今のご時世、無知でいることは意外と難しい気がする。」と書いており、やはりか、と改めてその思いを強くした。膨大な音源を聴き、独自の嗅覚をもって先人たちの蓄積と功績に辿り着く。それを自分のものにする。そしてその“発明”を他者がなぞったとしても、決して高橋さんの音にはならないのだ。

それは歌詞についてもそうで、音源と同じく膨大な読書量により文学作品から多彩なエッセンスを抽出(引用ではない)し、独自の世界を描く。この日は楽曲制作に際してインスパイアされたものについてポツポツと話してくれたのだが、ポエトリーリーディングがアレン・ギンズバーグ(「吠える」!)に代表されるビート族のイメージ、という話に強く頷いた。勝手な感想だが、高橋さんってバロウズじゃなくてギンズバーグってイメージだったので。で、やっぱりアメリカなのだな。「郊外のパラレルワールド」、何百キロも風景が変わらないような長い長い道を走り、辿り着いたダイナーやモーテルをクルマの窓外から眺める。エドワード・ホッパーの『ナイトホークス』が吉祥寺に出現する。

『ある種の熱』全曲を終えたあとは、夏の終わりをイメージしたナンバーを中心に。「バタフライ・ナイト」は、高橋さんの思いと、それに寄り添い支えるバッキングメンバーの演奏が奇跡のような場を創り出した。余談だが、2階中央の席には「予約席」が用意されていた。最後迄そこは埋まらなかったが(椅子の下は荷物置き場と化していたが…)、座っている方がいたのだろう(勘違いだったらすみません)。大切な思いをシェアしてくれたことにこちらも感謝する思いだった。

チェット・ベイカーのことをちょっと連想した。しかし高橋さんは、破滅的な方向へは向かわないと信じている。“Open End”は続いていく。

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高橋さんには青い炎が似合う。静かで、熱く、強い


鹿島さんも手応えあった様子

・鹿島さんは「目の上のたんこぶ」、「いや、先輩をいじるのは後輩の義務だから」。信頼関係が窺えました

・「タカテツー!」「サイコー!」と野太い歓声が飛んでいたのが新鮮。ガラの悪い(ほめてる)ジャズファンが来てるのかと思った