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2025年09月20日(土) ■ |
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東京バレエ団『M』初日 |
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東京バレエ団『M』@東京文化会館 大ホール
5年毎にやってくる三島由紀夫の生誕と没年。『M』も5年毎の恒例にしてほしい。武士道は『死ぬことと見つけたり』、しかし今回はラストの復活(輪廻転生)に強く心を動かされた。潮騒、呂の声、豊穣の海。海に始まり海に終わる、そしてまた始まる 東京バレエ団『M』初日
[image or embed] — kai (@flower-lens.bsky.social) Sep 20, 2025 at 19:07 割腹にあたるシーンを「扇をひろげる」という行為で表現した演出にも、今はとても意味を感じる。池本祥真は「シ=IV=死」は勿論「祖母」が素晴らしかった。5年前より、祖母が少年に与える影響の大きさを感じさせた。
鑑賞は三演目。前々回は2010年、前回は2020年だったので次は2030年かな……と思っていたのだが、5年で帰ってきてくれた。今年は昭和100年、つまり三島由紀夫生誕100年。
・2010年 東京公演 シを踊った小林十市の復帰&引退公演でもあった
・2020年 東京公演 神奈川公演 配信 コロナ禍真っ只中。東京公演のチケットは1回目の緊急事態宣言解除後の6月に発売されたものの、その後キャンセルになるかも+席が間引きされるかもとずっとヒヤヒヤしていた。神奈川公演は席を減らしてのチケット発売、その後様子を見つつ追加席を増やしていたけれど、5〜6割程の入りだったように記憶している。来場出来なかったひとのために配信もあった。これが素晴らしい出来で……パッケージ化してほしかったくらい。海外のひとにも多く観られた模様
・緊急事態宣言やまん防はいつからいつまで?時系列分析に役立つ過去発令期間やトピックスまとめ┃ビデオリサーチ すっかり忘れてたけどそうだ、まん防ってのもあったな……
そうそう、配信のエンドロールに感じ入って書き写してたのでそれも載せておく。当時舞台芸術の公演は不要不急のものといわれ、ここ迄ことわりを入れないとバッシングされる(入れても叩かれる)恐れがあったのだ。5年前だけど遠い昔のことのようでもある。
The safety and health of our Company and audiences are our first priority. The Tokyo Ballet and Japan Performing Arts Foundation presented the performances of “M” in October 2020 by taking a number of careful precautions and safety measures in line with current Goverment regulations to help audiences feel safe and enjoy their chosen performance. In addition, all the dancers and staff are taking daily hygiene precautions including to chek temperatures, to wear a mask, to disinfect and ventilate the studios and the facilities and others, to ensure COVID-safe classes and rehearsals. As of 17 November 2020, no COVID-19 cases related to the performances of “M” in October 2020 have been reported.
None Of Ones means nothing belongs to nobody. Without the other one, nothing could be created. And it contains two “one”s representing 11 (Eleven). When you hear their music, you will instantly understand the mutual respect and the joy they had during the creating process.
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前置きが長い、さて今回。『M』は男女ともプリンシパルが全員出演という非常に珍しい作品で、見どころがあり過ぎてうれしい悲鳴。なかでもI〜IVのメンバー(イチ=I:柄本弾、ニ=II:宮川新大、サン=III:生方隆之介、シ=IV=池本)がこれ以上ないといっていい程の充実ぶり。生方さんは今迄観たなかでいちばんオラオラドンドンなサンだった気がする。イチ、ニ、シが全員プリンシパルというのもあるのかな、すごい気迫だった。「禁色」パート、IIとIIIのパドゥドゥも官能的で見応えがある。体格も適材適所というか、スレンダーな宮川さん(上半身に筋肉がつかない体質のように見える)と筋肉質な生方さんがペアで踊る図の美しいこと。少年を乗っけて動きまわる役割もある柄本さんは、下半身が安定していて頼りになるイチ。あの騎馬戦体系になるところも、センターが柄本さんだと絵になる。
「禁色」パートの男男、女女、男女のパドゥドゥ〜聖セバスチャン(樋口祐輝よかった!)が少年に薔薇の花を手渡し、そこにシが駆け込んでくるシーンが大好き。今回も堪能。聖セバスチャンが与え、シが奪う規則性。あと今回は『鏡子の家』パートにいたく感じ入った。上野水香の超絶技巧! ベジャール独特の型が、長い腕と脚、剛柔併せ持つ身体で表現される。
射手の南江祐生も美しい所作。通常のバレエにはない振付、しかもこのシーンには音楽も全くない。そこで射法八節を見せるあの時間、めちゃめちゃ緊張するだろうな。それを固唾を呑んで見守る観客。針が落ちただけでも聴こえそうな静けさだった。あのキャパで、だ。シビれた。
池本さんは本当に凄かった。とうとう役をモノにしたというか(偉そうですみません)……前述したように「祖母」が格段に進歩した。5年前と全然違った。無邪気で屈託のないシ=死とは対照的で、体感的に死が近いことを自覚している祖母の風格があったといえばいいか。ゆっくりした所作のひとつひとつも老人のそれで、摺り足も美しい。見入ってしまった。カーテンコールではそっと少年を前へ押しやり自分は背後に控える。シという役柄だからこそ、という陰を感じた。衣装は真っ白なのにね。
船乗り役、前回は丸山明宏を彷彿するブラウリオ・アルバレスでほおぉ…となっていて、彼が退団した今どうなるんだ? と気になっていたが、今回の安村圭太もハッとする美しさ。菊池洋子のピアノを聴けるのも目玉。演奏(愛の死!)だけでなく、シと視線を交わし退場する一連の所作が素晴らしかった。
この5年で日本は、世界は凄まじいスピードで変化した。排外主義が跋扈し、分断が進んだ。しかもこれは進行形だ。この作品も、場合によっては危うい解釈で持ち上げられそうな不安がある。『M』は三島の生み出した作品と彼の人生がモチーフにはなっているが、彼の政治的主張を賛美するものとは思わない。
しかし今、あのときと同じことが起こったとしたらどうだろう。影響力のある作家が民兵組織を結成し、割腹自殺したら。そしてその生涯が作品化されたとしたら。それをどうメディアが取り上げ、どう民衆に拡がるだろう。初日の夜SNSで感想を探していて、ある議員が「ナショナリズムが〜」と書いているのを読んだ。「祖母」のことを「母」と勘違いしていた(「母」は「海上の月」として登場している)。芸術鑑賞に知識は必須といいたくないが、それでも首を傾げずにはいられなかった。ただでさえデリケートな作品なのでどう利用されるかわからない。この作品が上演され続ける平和な世の中であってほしい。
楽日にもう一度観る。楽しみ。
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・「M」2025 公式サイト┃NBS日本舞台芸術振興会 ・ベジャール振付『M』、初演ダンサーが語る創作秘話┃NBS日本舞台芸術振興会
・東京バレエ団『M』(振付:モーリス・ベジャール)公開リハーサル・レポート┃SPICE
・インタビュー 横尾忠則と上野水香が語る東京バレエ団「M」 モーリス・ベジャールがつないだ2人┃ナタリー 横尾 ベジャールが三島由紀夫につながっていくのは、最初からわかっていたことでした。ベジャールに初めて会ったとき、彼はもう三島さんの“残像”をいっぱい抱えていましたから。
・十市さんがinstaストーリーズに東バからのメッセージ動画を載せていた。「初日開けました、十市さん、有難うございましたー!」って出演者が皆で手を振ってるの。今回はリモートで指導していたとのこと。現場に行けないのを残念がっていたけど、今はBBLとご家族の傍にいないとね
・子役さんの関係者(らしかった)の方々に囲まれたような席ですごい緊張感、つられてこちらも緊張して観たがご本人は堂々と少年を演じきっていた。ダブルキャストじゃないんですよね、あの歳であの役をひとりで…すごいな……
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