★★続き★★
「この前、川ちゃんと遊んだ時に、 リョウ、すごい車にこだわってたよね。 待ち合わせに来た時も、川ちゃんに車のこと聞いてたし。 この前川ちゃんと喋ってて、あたしは川ちゃんとすごい遊びたいと思ってて。 川ちゃんもあたしと遊びたいと思ってくれてて、それで遊ぼうねって言ってて。 リョウもいいねーって言ってくれて遊ぶことになったんだけど。 それで誘ったんだけど。 川ちゃん、あたしたちが誘ったことすごく嬉しく思ってくれてたのね。 あたし、川ちゃんと遊んでみたかったから、それでそう言って。 川ちゃんも、あたしが遊びたいって思ってたことすごいよくわかってくれてて、 だけど、「だけどリョウは違うよね」って言ってた。 リョウは川ちゃんと遊びたがってたんじゃなくて、 車が欲しかったんだよね、って。 川ちゃんはリョウと喋ってて、 リョウのいいところもたくさん見つけてくれてたし、 リョウのことを悪く思ってなかったけど、 自分のことを車だと見られて、いい気分がするわけないよね。 だからあたしも、リョウが川ちゃんにそういう風に言ってる時、ずっとフォローしてたのね。 それがいけないことだと思ってるからフォローしてたんだけど、 それをその時リョウにはいえなかったのね。 それがアタシの悪いところで、直さなくちゃいけないところなんだけど。 それで、川ちゃんと、リョウそういうところあるよねって話してたら、 川ちゃんに、『気がついてるなら、何で言ってあげないの?』って言われて。 ああ、そうだなって思って。 リョウがこれから、気がつかずに、他のヒトにもそうやって接していって、 それでリョウが誤解されたりするのを、 今言うことで、 リョウが気がついて、やめた方がいいって思うなら、やめれたらって思って」
ユッコは、必死に喋ってた。 アネキに向かって。 アタシはユッコのことをみてた。 話が一通り終わるまで、目はあわなかった。 アタシの目には、ユッコがアタシのことを怖がって (というかアタシに嫌われるのを怖がって?) アネキに問いただしているように見えた。 あたし、間違ってないよね?そうよね?って。
アタシのことを見ながら喋るのは怖かったのだろう。 アタシは、話を聞いている間、演技をするのをやめていたから、 多分怖い顔をしていたと思う。 あるいは、どこかおもしろがるような顔かもしれない。
アタシは傷付いていた。 どこに傷付いたかどうかは、いまいちわからなかった。 川ちゃんを、傷つけてしまったことに。 それをユッコから聞かされたことに。 そのことについて、川ちゃんとユッコの間で喋られたことに。 どの部分に傷付いているかはわからなかったけど、 だけど涙が出そうになった。 なんだかすごく、悲しかった。 だけど泣くわけにもいかなかったので、 必死に涙をちらし、 冷静になろうとした。
そして、考えた。 どうしよう? どう、言葉をかえそう? しゃべり終わったユッコには、 「へえ」とか「そう」とか、 そんな言葉を返した。
どう応えたらいいのかわからず、 なんとなく無感動にただ「聞いた」というような言葉を返したかった。 気を抜いたら、泣いてしまいそうだった。 だけど、ユッコが先に泣いた。
前にも同じようなことがあった。 ユッコは、自分が友達の、悪い部分を喋る時に、 すごくすごく怖くて、 だけど話さなければいけないと思う正義感で喋って、 だけどプレッシャーで押しつぶされてしまいそうになるのだろう、 と思った。
自分が嫌われてしまうんじゃないか、とか。 自分が言った言葉で、大切な友達を傷つけてしまうんじゃないか、とか。 考えて、だけど言わずにはおけず、 その持ち前の正直さで隠すことも出来ず、言ってしまうのだろう。
泣いたユッコに、アタシは言った。 「これでアタシがユッコのことを嫌うことは絶対にないから」 そう言った。 それは本心でもあり、嘘でもある。 その時、アタシは、嫌う・嫌わないということなど、どうにも考えていなかった。
ユッコは、以前同じゼミの友達のRちゃんのことを、 自分のことばで傷つけてしまったことがあって。 それをRちゃんに「言って欲しくなかった」といわれて、 自分もたいそう傷付いてしまった事がある。 それが、ユッコの精神的な不安定のひとつの要因であることを、 聞かされていた。
だからこそ、アタシは考えた。 アタシにとって、ユッコの言葉は無神経で、言ってほしくはない言葉だった。 それが例え、ユッコにとっての正義であり、友情であったとしても。 アタシはそれを求めてはいなかった。 自分なら、冗談半分に注意したり、もっと軽くいったりしただろう。 そして、そのあとにアタシ自身が泣くことは確実にないだろう。 というか、注意さえもしないかな・・・。
自分がそんな立場に立ったことがないからワカラナイし、 その時になってみたいとわからない。 特にアタシは気分屋で、その時の気分で動くから、自分自身がどんな風に動くかはわからなかった。
だけど、友達が何か非のある行動をしたところで、 それはダレにでもあることなのだから、という考えを持っただろう。 「これから友達が同じような場面で他の人を傷つけたら・・・」 という危惧は、したことはない。 それはアタシの関知することではないから。 それはそれで、友達が自分でどうにかするか、 そんな性格も周りのヒトに認めてもらうか、 「その部分は悪いところよね」と流してもらうしかないのではないだろうかって思うから。
人付き合いをする上で、 「この人のここはどうかと思う」と思いながら人付き合いをすることなんか、 往々にしてあることだ。 それにいちいち注意などできないし、 その注意を自分がすべきだとも思わない。 注意をしていいほどに、自分ができた人間ではないからだ。 アタシなら、自分が誰かのことを嫌だと思ったとき、 自分を省みてしまうだろう。 自分自身にはそんな部分はないのか、と。 自分自身に少しでもそんな部分があるとすれば、 自分には他人を注意する権利などない。
自分がどうするかは、やはりわからない。 考えてみても、想像がつかなかった。 自分と同じような部分をもつひとを嫌悪することはよくあったけれど、 それを本人に「アナタのために」と告げたことはない。 ただ単に「オマエのココが嫌だ」と告げたことはあるかも知れないけど。 その記憶は、中学生以前のことだ。 その時の自分の浅はかな行動をアタシは後からひどく後悔した。
ユッコは、それを、今していた。 アタシが、どう思うかは、考えなかったのだろうか。 否、考えていた。考えていたけれど、言ったのだ。 考えた末に、アタシが傷付くだろうということも想定した上で、 自分の正義でアタシに告げた。 それは、ユッコにとって、 「正義」で、 すべきことだったのだろうか。
「言わずにはおけなかった」 「我慢できなかった」 「アタシ正直ものだから」 という理由で?
それは押し通さなければならないようなこと? アタシが傷付くかも知れないという可能性を押しのけてまで? だけどアタシの心は、傷付いていたし、腹もたっていた。反論もあった。 アタシが川ちゃんの車にこだわったのは、ユッコが「バッティングセンターに行きたい」と言っていたからだ。 アタシの中では、ユッコの意見を取り入れ、それを遂行することを一番に考えていて、計画があって。 だから、川ちゃんに車を持ってきて欲しかった。 アタシとしては、「川ちゃんの車で出かける」というのが本日のイベントである、という意識があったので。 (おそらくそういう態度をユッコにとっていたと思うし)
川ちゃんとユッコの間にどんな連絡がとられていたのかは分からなかったけど、 「アレ?話が違うなー」という感覚だったのだ。 それが川ちゃんにとっていい気分でなかった、というのは確かに頷けるし、ああそうだな、と思った。 でもアタシは、ユッコのことを、一番重要視していたのに。
なんだか、腑に落ちなかった。 自分の好意がまったく伝わっていない。 まあ、仕方ないのか。 伝播しない。 ただそれだけのことだけれど。
だけど、そのことを。 あらためて「アナタのためにアタシは言わなくちゃいけないと思ったの」と泣きながら言われ、 日中に仲良く遊んだ、嬉しいなーと思っていた友人がその後に揃って自分のダメ出しをしていたのだ、アタシの言葉で川ちゃんは傷付いたのだー!という事実をリアルに聞かされて。 アタシはどうしたらよかったのだろうか? ユッコは、 アタシが、 「ありがとう、言いづらいこといってくれて、気がついてなかったわ、これから気をつけようと思うわ、嬉しいわー!」 って言うと思ったのかな。
ふうん。
アタシそんなに、イイヤツじゃないよ? だけど、ユッコが「リカを傷つけた」ことを知ってる。 ここでアタシが「傷付いた。言って欲しくなかった」って言ったら、 ユッコは傷付くのだろうか? アタシが言いたいのは、確かにその言葉だった。 というか、もっともっとキツイ言葉でユッコを責めたかった。 だけど、アタシの中の理性と、 良心と、 友情と、 計算高さが、 パチパチと算盤を打った。 どうする? どうする? どうする?
それは、 「どうしたらユッコを傷つけずにすむ?」 という計算であり、 「どうやったらアタシはイイヒトに見える?」 という計算であり、 「どうやったらアタシはこのあと後悔しない?」 という計算だった。
アタシの中で渦巻くいくつかの感情がせめぎ合い、争った。 どの感情を表に出して、どう対応するか。 それでこれからのユッコとの付き合いが変わると思った。 だから、アタシは、ユッコが望むであろう言葉を、自分の許す限りで言った。
「ユッコがアタシのために言ってくれてるのはわかる。確かにアタシが川ちゃんにった言葉はよくなかったと思うし、それを直そうとは思う」
と。 だけど心の中で言った。 (だけど、アリガトウとは絶対に言わないよ) (感謝なんかはまったくしていないよ) (ユッコの友情は伝わってきたし、アタシのことを大事に思ってくれてるのもわかる) (だけど、アタシが傷付いたことには、かわりはないのだから)
それまであまり喋らず話を聞いていたアネキは、 「え? そうなの? そんな素直に納得しちゃうんだ?」 って言った。
アタシはなんとも言えなかった。 とりあえず、「ええ、それ以外になにか?」という顔をした。
アネキは、 「私なら、言ってほしくない。 自分に悪いことがあったんだとしても、それを言ってほしくない。 それに傷付くから。 その傷に耐えられないから。 だからさっきみたいに、言いたいことがあるんだけどっていうような、 そんな様子さえ見せてほしくないの」 って。
すごく正直だ。アタシもほんとはそっち側だ。 アネキの言葉を聞いて、アタシはちょっと失敗したかな、と思った。 アタシも正直に、傷付いたって言えばよかったかな。 だけどそれで、ユッコが受けるダメージのことを思うと、そうも言えなかった。 アネキは、耐え切れないといった。 それは確かに弱さだ。 だけど、それを「傷付くから言わないで」といえるのは、強さだと思った。 いや、予防線なのだから、それは弱さなのか。 どっちにしても、アタシにはできないことだと思った。 アタシは弱くても、それをいえない。 のらりくらりと、傷付かずに強い人間を演じる。 演じようとする。 それが自分なのだ。 「これから長く付き合っていく友達に、 自分が傷付くところを知っておいてもらった方がいいと思わない?」 どの言葉の続きだったか覚えていなかったけど、アネキがアタシに言った。 正論だ。 アタシは思わず黙った。 しまったと思った。 アタシは、いつも「事なかれ主義」で、 その場を切り抜ければいい、と思って生きてきた。 だから、本当に心から自分のことを相談できるヒトはほとんどいないし、 自分が涙を流しながら相談できる相手もいないのだ。 否、自分のことを相談できる相手なら、いる。 正直に自分のことばを言える友達なら、いる。
だけどそれは、アタシがその話を笑って話せるようになってからだ。 アタシがそのことをある程度乗り越えて、 自分自身にいいわけをつくってあげて、 考えをある程度固める事が出来たら、その話を出来る。
ユッコが以前言っていた。 「次々に考えが変わる」って。 そんなの、アタシの中では当然の話だった。 悩んだこともない話だった。 次々に自分の考えは変わる。 だからこそ、喋らない。 自分の考えが定まらないうちは、人にそのことをしゃべらない。 相手に「リョウは○○というように考えている」と思われて、 その後すぐに自分の考えがかわってしまったら、嫌だし。
もう1つ、アタシが怖いのは、自分の思いを相談をして、 相手がそれを重荷と思わないかどうかいうこと。 自分のことをしゃべって、 そのことばが、その中身が、 相手を押しつぶすことはないだろうかという不安。 そして、その不安とは裏腹に、 「自分にとってこままで深刻な問題が、すごく軽くとられてしまったらどうしよう?」という不安もある。 自分の傷をさらして、自分のことをしゃべって。 だけど、その傷をしゃべったはずの人間に、同じ傷をつけられたらアタシは多分耐え切れないだろう。 相手のことを信用したあとに裏切られるよりは、相手に話さずに、 「相手はアタシがそれに傷付くってことを知らないから、仕方ない」 という逃げ道を残しておくことで、自分自身をうまくだまさなくてはいけないのだ。 これがアタシの弱さだと思う。
ひとを信用することができない。
続く。
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