京のいけず日記
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●講習43−44日目● 朝。いつも顔を見る通勤仲間に、少し神経質そうな痩せた青年がいる。

踏み切りの手前で足早に私を追い抜かし、先に駅舎へと入っていく。
いつもなら、改札を出て連絡橋を渡り、反対側のホームに辿り着いているはずの彼が、今朝は階段の途中で立ち止まっていた。
俯いたままの後姿。
携帯でも鳴ったんだろう…。 それとも忘れ物でも思い出したかな。
追いついて、横をすり抜ける。
しかし、その手に携帯はなかった。 微動だにせずまま、俯いて、同じ格好でじっと動かない。
彼は止まってしまった。 バッテリーが無くなってしまったように。
朝の通勤風景にしては異質な光景。劇中のパフォーマンスに見えるほど、まわりの時間も飲み込んで、彼は完全に止まってしまっていた。
異様に思ったのは私だけじゃなかったらしい。 追い抜かしていった人達が、心配そうに、あるいはギョッとして振り返る。
どうしてしまったんだろう…。
どうか… 動いて下さい。 …こんなところで止まっちゃ、だめだ。
もし彼がゼンマイ仕掛けの人形なら、キリキリとネジを巻いてあげたい。
動いて下さい。 こんなところで止まっちゃ、だめだ。
階段を昇りきって振り返る。 彼がのろのろと同じ表情で階段を上がってきた。
よかった。 ふっと胸をなでおろした。
……と。まぁ。今朝はこんな光景に出くわしたわけなんですが。 実際のところ、その表情のない青年は。
おばはんッ!何を勝手なことをぬかしとんねんッ。ぼけ。 俺は腹が痛くて立ち止まっていただけだ。 心配なら声の一つもかけんかい。あほんだら。
または。
えぇっ…と。俺、ビデオの録画してきたかなぁ?どうだっけ…。 と、考え込んでいただけかもしれません。
でも、ほんとに、どうかしてしまったんじゃないか、と悲しくなりました。 それぐらい、このほんの数分間の光景は異様でした。
時間が止まる、というシチュエーションの話があります。 それは主人公の力によるものでしたが。
そうじゃなくて、燃料切れをおこした人達が、ある日、突然、ぷスンと動かなくなっていく光景…。かなり怖いです。
あなたのバッテリーは大丈夫でしょうか。 私のは、最近かなりガタがきて、充電力が落ちてきたようです…。 (T_T)
Sako
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