オトナの恋愛考
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2010年06月27日(日) ネット・カフェ






週末、私たちが一緒にいられるであろう時間は約12時間の予定だった。

ひろがたった2時間、待ち合わせ時間に遅刻したせいで
私たちの「天国のシエステ」は果せなくなった。

12時間のうち、1時間は形だけの書類作成と契約業務。
2時間はランチタイム、1時間半はショッピング、パーティーは3時間、
移動時間に1時間半は考慮しても、シエステの時間は3時間はあるはずだった。

でも、前の晩に飲みすぎて、意識を失って、気づいた時には
なぜかちゃんと家の絨毯の上で目覚めたひろからのメールで
待ち合わせ場所に行けるのが、約束の時間より2時間後だと知ったのは
私が東京行きの新幹線に乗った直後だった。

予定通り、最寄駅に約束した時間に到着して
駅の構内のお気に入りのカフェで、
忙しくてまだページを開いていなかったシュリックの「朗読者」を
半分まで読むことが出来た。

いよいよ、主人公がかつての年上の恋人と再会する直前に
ひろから「そっちに今向かっているよ。あと30分くらい。」とメールがきた。

まるで、私は彼との逢瀬のためでなく、
この小説を読むためにそこにいるような気までして
佳境に入る寸前で身支度を整えなくちゃいけない事を
なぜか残念にすら感じるほど物語に没頭していた。

急いで、食べかけの「ニース風サラダプレート」の、
トーストの残りを口にして、アイスミルクティーを飲み干し
パウダールームでメイクを直し、急いで髪型をチェックして
それからひろとの待ち合わせ場所へ急いだ。

私がショールームに着いてから5分後にひろが疲れた表情で入ってきた。

「ごめん。」「朝帰りだったの?」
「そお、気付いた時は家にいたけど二次会からの記憶がないんだよ。」
「ちゃんと家には帰れたのね。」
「オフィスに寄った形跡もあったし二次会に参加した事もわかった。
 覚えていないワイン・バーのレシートもあった。
 ちゃんと仕事のバッグはあったから。」

私は怒るつもりも責めるつもりもなかったので思わず笑ってしまった。
ただ大切なたった2時間が惜しかっただけだから。

会社の人がいたので他人行儀な言葉使いで
形式的な概要を説明して、隣のショップで必要なものを買って
ショールームを出たのが2時過ぎだった。

「何か食べてきた?」
「ううん、まだ。うさちゃんは?」
「私は軽くサラダみたいなのを食べた。」

パーティーが始まるまであと3時間弱。
移動時間を考えるとどこかで触れ合うには中途半端なお昼寝タイム。

会場のイタリアンレストランのある町に移動して
そこで時間を潰すのが一番効率的だと意見が一致して
私たちはメトロに乗り込んで約45分後にはその町のネットカフェにいた。

いくらペアシートブースだとは言え、
ブースと通路を遮っているドアは上と半分より下が空いていて
公共秩序を乱すカップルがいかがわしい行為をしないように出来ている。

フリードリンクのコーヒーを二つ持ち込んで
インターネットそっちのけで、ドアの外にはわからないように
私の膝枕でほんの束の間のシエステタイムを決め込んだ。

「疲れてるでしょ?膝枕でお昼寝くらいだったら許されるよね?」
「いいの?嬉しいな。じゃあお言葉に甘えて(笑)」

靴を脱いでペアシートで横になったひろは
私の膝枕で眠るどころか、向きを変えて私の腰にギュッと腕を回して
胸やお腹に顔をうずめる。

「ねえ、ひろが遅刻なんかしなけりゃ
 もっと違う場所でシエステできたのにねえ。」とちょっと苛めてみる。

「うーん、ごめん。記憶を失うほど飲んだつもりなかったのになあ。」

隣のブースから咳払いが聞こえ、そこは図書館と同じで会話は禁止。
ましておバカな中年カップルのイチャイチャ会話なんか
出入り禁止の対象になってしまいそうだ。

「手話に切り替えようか。」とひろの耳元で囁く。
彼が顔をあげニッコリと微笑み「筆談にしよ。」と答えた。

そしてそれまでキスしたり甘噛みしたり
舐めたりしていた私の手の平に何かを人差し指で書く真似をした。

よくわからなかった。3文字なのは途中からわかった。
わかったけれどわざと意地悪をして5回も手のひらを愛撫させた。

 し・た・い

見詰め合って微笑みあって
「ひろが遅刻しなかったら出来たのに。」と耳元で囁いた。

パーティーの為の薄いレースのブラウス越しに
彼の熱い吐息を感じ、布を通り越してその息は
私の奥の場所を溢れさせる。
薄いレースの上から噛んだり舐めたりするから
私の衣装は彼の吐息と唾液で濡れてきて
私の理性が甘い誘惑と戦っていた。


それから彼の背中をさすっていた左手をお尻の方まで伸ばすと
急に寝返りをして「もっとした・・・」と目で訴える。

もっと下は彼の欲望がマックスになっている事を証明していた。

ひろの厚い胸から締まったお腹。それからベルトの下の膨らみを
マッサージするふりをしてそっと撫ぜた。

通路をスタッフがさっきから行ったり来たりしている。

いないときを見計らってまたすっと撫ぜた。
私の空いている右手の手のひらや甲にひろがキスを繰り返す。

ふと気が付くとひろのベルトの下の欲望の膨らみに
シミをみつけて笑ってしまった。

「ひろ、ねえシミができてるよ。(笑)」「あ、ホントだ。」
これからパーティーに出席しなくちゃいけない事を思い出し、
2人で我に返ったのが始まる30分前。
あわてて洗面所へ彼が行き、私はブースでメイクを直した。

笑いながら急いでネットカフェを出て
私たちはイタリアンレストランへ向かった。

簡単にお互いの裸の奥底に触れ合えない環境の方が欲望が増加する。

でも公の場所ではそれまでの秘め事はずっと奥に仕舞いこみ、
私は彼にその日に大切な私のメンターに紹介しなくてはいけない。
エロチックな時間はそのままオアズケになってしまった。

ひろとの時間は束の間だけど
書ききれないほどの記憶があって
私はいつも何度かに分けて記録する。

続きはまたこの次にでも。






夢うさぎ |MAIL

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