◆◇ お気楽観劇日記◇◆
公演やビデオなどを・・・見たまま、聞いたままを
つらつらと書き綴ったまたまた気楽なコーナーです。

2003年12月09日(火)  星バウ 『巌流』

久しぶりにポスターまでもが「見たい」という気持ちにさせるものだった。
最初にトウコのバウが決まった時に
「え?また齋藤先生?また日本物?前のと似すぎやん。」って思った。
でも「きっと見てるんやろうなあ。」それくらいしか思わなかった。
ところが・・・である。出演者に汐美ちゃんの名前があがった瞬間
「きっと・・・。」から「絶対見たい。」に変わっていた。

雪組時代のトウコを知っている人ならば必ずそう思ったに違いない。

でもね、よくよく見てみたら、ポスターの衣装は『花吹雪恋吹雪』のだし、
見た感じやっぱりえらく重なるし・・・なんだか不安もあったりした。

ストーリー的にはなんのひねりもなく、普通の・・・史実に基づいたような
そうでないような・・・微妙な線のものだった。
そう・・・だからあまり覚えていない。

だけれども・・・トウコと汐美ちゃん・・・この2人が並ぶだけで充分だった。
トウコがセンター前で歌う、その後ろから汐美ちゃんが登場する。
涙が出ないワケがない・・・。

まさかまたこの2人の並びが見れるとは思ってもみなかった。
そんな気持ちでいっぱいだった。

トウコの小次郎は、切なくも痛々しくて、常に孤独と憂いを帯びたようだった。

少年時代から成長するまでは、あっという間で・・・そのあと養父やら養父の敵やら
恋人やら、ライバルやらがどんどん登場して・・・あたまはごちゃごちゃだった。

養父であり、剣の師匠でもある鐘巻自斎・・・英真組長。
さすがさすが・・・だった。
昔、ライバルだった伊藤一刀斎(紫蘭ますみ)に殺されてしまった
本当の息子小次郎の面影を求めて飲んだくれていた日々。
そんな中、海岸に流れ着いた少年時代のトウコ小次郎と出会い、育てていく。
剣に厳しく、時には優しく、剣の達人として育っていく小次郎の更なる飛躍を願いつつ、
いつもそばにいてほしい・・・という父としての切実なる思いも垣間見られて
自然、涙が出てきた。

わりとあっという間に殺されてしまう伊藤一刀斎(ますみちゃん)と
新免無二歳(麻園みき)もわずかながらも存在感たっぷりだった。

小次郎のライバルでもあり、良き理解者でもあった吉岡清十郎に綺華れいちゃん。
最初に登場した時にはあまりの麗しさと美しさにため息がでた。
なんと艶やかなんだろう・・・。
昔『冬物語』でまさちゃんの十六夜を見た時と同じような衝撃だった。

それから小次郎の永遠の想い人・・・椿(叶千佳)
養父自斎の敵、一刀斎を切る為に乗り込んで、誤って椿の頬を切ってしまう。
父の敵と恨みを持ちつつも小次郎を忘れられない椿。
そんな椿を想いつつ、守りつつ、敵小次郎を探す旅を続ける尾崎清羅(大真みらん)

清羅を演じるももちゃん。
いつの間にかとーっても存在感が増していて、明るい役かと思いきや、
椿を想う気持ちと小次郎への復讐心が強く現れていた。
かつては共に剣を学んだ仲間だったのに師匠の敵となってしまった小次郎への葛藤。
そして次第に強く、凛々しくなっていく・・・そんな清羅が息づいていた。

最後、小次郎の前で誤って椿を切ってしまい、動転する清羅。
小次郎の腕の中で息絶える椿を見て、みずからも命を絶つ清羅。
椿のために生きてきた清羅の最後の哀しみが痛いほどだった。

武蔵・・・汐美ちゃんと共に旅を続ける新田利助(彩海早矢)
底抜けに明るくて、お調子者で、「いいのか?それで。」と思わせるくらいだった。
全体的に暗く沈みがちなイメージの中で1人明るく、その明るさがある意味、
小次郎と武蔵の剣なしでは生きていけないという哀しい宿命を克明に際立たせていた。

オランダ人遊女アンナ(陽月華)
哀しみを帯びた雰囲気。静かな中にも小次郎に自分と同じ孤独を感じ、
小次郎への思いを募らせるアンナ。

こんなにも・・・もっともっと登場人物はいた。
小次郎のライバル。小次郎を倒しに来るライバル。
小次郎を想う人々・・・。

でもあまりにも多すぎて、あまりにも一人一人が短すぎてインパクトに欠けたことは否めない。

さてさて宮本武蔵・・・汐美ちゃん。
少し荒くれた二刀流の達人。
自分が誰よりも強くなるために・・・そして誰よりも強いことを確信し、
世に知らしめるために旅を続ける武蔵。

小次郎という剣の達人の存在を知り、お互いを宿命のライバルと思い始める。

自信に溢れた武蔵と哀しみと憂いを帯びた小次郎。
この対照的な2人が登場する。

なんど見てもこの並びはいい。

なんど見ても涙が出る。

登場人物が多すぎるので、人と人との絡みを把握する前に絡みが終わる。
そんな感じだっただけに・・・単純に2人の並びがうれしい。

史実に基づいているので、主人公の小次郎が武蔵を破ることはない。
もちろん、巌流島の戦いで、破れるのは小次郎で、武蔵が勝つ。

戦いの前に背中に背負った赤い鞘の長太刀を取り、鞘を投げ捨てる小次郎。
かつての幼い頃の親友の幻が現れ「なぜ、鞘を捨てる。鞘を捨てるということは負けるということだ。鞘に剣が戻ることはないということだ。」と言う。

赤い長太刀のおかげで人を傷つけ、愛する椿を傷つけ・・・いつも哀しみしか与えない
・・・そう言って常に剣を置くことを願っていた小次郎がその幻の言葉の瞬間、
どことなく安堵の色を示した。

「哀しみから解放される。」そういう感じだった。

武蔵が勝ち、倒れる小次郎。

トウコの小次郎は本当に悲しかった、切なかった。ツラかった。
ライバルでもありながら、共に剣が結んだ・・・剣なしでは生きていけない
強い繋がりを持つ武蔵と小次郎。
そんな2人がトウコと汐美ちゃんとタブる。

この2人はさすがに太刀さばきも安心して見ていられた。
着物を着ての立ち居振舞いにも無駄がなくて、とても自然だった。

作品の・・・ストーリーの流れはともかく・・・
この2人を主演・準主演というカタチで見ることができて
本当になんともいえない気持ちで幸せだった。

何度か見れば、もっとストーリーの奥深さや人と人とのつながりがわかるのかもしれない。

でも1度だけ・・・という私のような人には・・・「人物絵巻」というカタチでいいかもしれない。

その時代に息づいた人々の人物絵巻物・・・。
そう思えば、わかりやすく、つじつまなども気にならなくていい。

そしてトウコと汐美ちゃんの並びにただただ満足できるだろう。


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春吉

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