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2023年10月27日(金) ■
『極限境界線 救出までの18日間』

『極限境界線 救出までの18日間』@TOHOシネマズ新宿 スクリーン12


推敲もせずアップしちゃったんで清書。「派手なアクションもあり見せ場も多いが、終始抑制の効いた演出。外交官も工作員も、人質の救出を最優先に考える。こういう仕事は世間から評価されづらいし感謝もされない。それでも彼らはやり遂げる」。

原題『교섭(交渉)』、英題『The Point Men』。2023年、イム・スルレ監督作品。2007年に起こった拉致事件を元に書かれたストーリー。人質となったのは、伝道のためアフガニスタンへ入国した23人の韓国人クリスチャン。タリバンの要求は、アフガニスタンに駐留する韓国軍撤退と、収監されているタリバン戦士の釈放。イスラム主義組織であるタリバンに、人質がクリスチャンであることを知られてはたいへんなことになる。政府は、人質はボランティアのためアフガニスタンに入国したと発表し、アフガン外務省との交渉に外交通商部の次官と室長を派遣する。一方、国家情報院はパキスタンで活動していた工作員をアフガンに送り込み、独自の交渉を図る。

メンツが〜! 恥が〜! アメリカが〜! 上のひとたちは国家ファースト。内緒にしてたのに人質はクリスチャンで〜とニュース番組のコメンテーターがいっちゃう。抗議を入れても国内の放送だからアフガンに知られることなんてないですよ〜と呑気なテレビ局。そんな訳なく、すぐアルジャジーラで引用映像が流れちゃう。そもそも渡航しないでって注意喚起してる国になんで行っちゃうのようア�燹次次次爾帆膿佑魯屮船�レれば済むが、交渉人はそうはいかない。

断片的な報道や噂でしか事情を知らない世間は好き勝手に文句をいう。出せない情報というのはあるのです。いえないことは山盛りです。交渉にあたるというのはそういうこと。それぞれの立場や複雑さが描かれる。「(あなたたちはこれが片付けば終わりだけど)我々はタリバンとこの先も戦わねばならない」というアフガン外務省役員の言葉は重い。

好もしかったのは、極端なバカとか極端に意地が悪いひとがいないところ。エンタメとしては、そういう人物を各所に配置しておくとメリハリがつきやすい。しかしこの作品の筆は滑らない。次官は全然仕事してなかったように見えたけど(笑)最後書類に署名するとことか、室長の次官に対する態度とかを見ると、やはりこのひとも見えないところで闘っていたのだろう…多分……と思わせる余白がある。書記官たちも健気でよかった。どんな都合があっても、最重要かつ最優先事項は人質の救出なのだ。「テロリストとの交渉を国家外交の恥だと思わないのか」と問われても、「外交部の使命は人命を守ることです」と答える室長に信頼を覚える。国家を代表するもの、映画のなかだけでなく現実もそうであってほしいと思いますね〜。

室長はファン・ジョンミン、工作員はヒョンビン。会った当初は事あるごとにぶつかる。興味深いのは、どちらも迷惑そうではあっても決して相手を見下さないところ。こういうときのジョンミンさんの演技はいつも独特。複雑で繊細、腹が読めない表情をする。これ迄も幅広い役柄を演じてきたひとだが、思えばこうしたエリート官僚の役は珍しい。あまりにもストレスばかりの状況に、いつシーバラマーとかケーセッキヤーといいだすかとハラハラしたが(笑)そんなことはなく、決して諦めずに粛々と責務を果たす姿が頼もしかった。ヒョンビンさんは『王の涙』でしか観たことがなく、大ヒットした『愛の不時着』も未見なのだが、陰のある役がとても似合う。目の前で人質を殺されたトラウマに苦しみ乍ら、同じことを二度と繰り返すまいと奔走する。ふたりとも互いの仕事に敬意を持っている、そんな誠実さが伝わる演技で素晴らしかった。

そして常に緊張を緩和してくれた通訳役のカン・ギヨンがいい仕事! 生真面目な室長と頑固者の工作員の間を度胸とユーモアで立ち回る。どっか抜けてるところもあり……だってさあムチ打ちの刑の方がタリバンとの交渉通訳よりよっぽど安全だと思うよ? とはいうものの、いざというとき自殺出来る薬を自前で持っているところにワケありの背景。現地通訳の方も印象的。

それにつけても宗教というものは……と考える。信仰の厚いひと程、それを他者に与えたくなる。伝道したくなる。相手の信仰を不在のものにしてしまう。文化や慣習の違いを省みない。布教に出かけたために拉致されたことが問題視されたそうだが、イム監督のインタヴューによると、映画が公開されたことで、当時のことを知らなかった若年層から非難が再燃してしまったそうだ。“神”と向き合うにはタイマンで、が持論だが、“善きサマリア人”はそうはいかないのだろう。難しい問題。

イム監督とジョンミンさんは2001年の『ワイキキ・ブラザーズ』以来、20年ぶりのタッグ。緊迫感溢れる机上の交渉シーンと、アクションや爆破等、ダイナミックなシーンの対比が効果的。撮影監督はイ・スンフン。マジックアワーや砂漠の画(あとあの車列の撮り方!)は、ロジャー・ディーキンスを連想させた。意識したのかな? 撮影地はヨルダン。2023年の今、イスラエル・パレスチナ情勢は激化し、彼の地も無関係ではいられないだろう。もうこんな撮影は出来ないかもしれない。世界は分断され、ますます狭くなる。悲しいことに。

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邦題、昨年日本で公開されヒットした『モガディシュ 脱出までの14日間』の観客にリーチしたいという狙いがあったのかな。逆に混同しちゃいそう。『モガディシュ 救出までの18日間』『極限境界線 脱出までの14日間』になってても気付かなそう

・輝国山人の韓国映画 極限境界線 −救出までの18日間−
いつもお世話になっております。書記官の名前が分かって助かる

・2007年ターリバーン韓国人拉致事件┃Wikipedi
元の事件

・ファン・ジョンミン&ヒョンビン主演、映画「極限境界線 救出までの18日間」7月上旬からヨルダンで撮影を開始┃Kstyle
・ファン・ジョンミン、映画「極限境界線 救出までの18日間」の撮影を終えて帰国…新型コロナウイルスの検査結果は“陰性”┃Kstyle
撮影は2020年。ヨルダンでの長期ロケはただでさえたいへんなのに、感染対策等、前例のないことばかりで手探り状態だったとか。なかなか入国許可が出ず、なんとか現地に着いても隔離状態で撮影せねばならず、かなり苦労したそうです。
ところでKstyle、関連記事全てを初出の原題『交渉』から邦題に更新してる。結構な手間ですよね……気配り上手

・ヒョンビンの楽天的で荒い部分を引き出したかった―映画『極限境界線 救出までの18日間』イム・スルレ監督インタビュー┃SCREEN ONLINE
ファン・ジョンミンにきゅうりのキムチや玉ねぎの漬物の作り方を教えてあげたところ、彼も作っていました。
ははは。監督とジョンミンさんでキャストやスタッフに手づくりの食事を振舞ったりもしたそうですよ

・映画『極限境界線 救出までの18日間』予告編┃YouTube ギャガ公式チャンネル

日本版予告編

・[교섭] 공식 1차 예고편┃YouTube 플러스엠 엔터테인먼트

本国公式1次予告編。結構違いますね

・灼熱の砂漠メイキング映像「極限境界線 救出までの18日間」┃YouTube ギャガ公式チャンネル

いやもうおつかれさまです、無事公開されてよかった



2023年10月22日(日) ■
維新派『トワイライト』(映像)

維新派『トワイライト』(映像)@東京芸術劇場 シアターウエスト


いやホント、そう思わせてくれた。配信をPCの画面で観て、ヘッドフォンをして聴くのとはまた別の体験。

東京芸術祭2023内のプログラム『EPAD Re LIVE THEATER in Tokyo〜時を越える舞台映像の世界〜』から。舞台芸術アーカイブ+デジタルシアター化支援事業であるEPAD(Eternal Performing Arts Archives and Digital Theatre)は、2020年に活動をスタートしました。折しもコロナで劇場が閉まり、演者も観客も立ちいかなくなっていた頃。ずっと進めていたものの公開がたまたまこのタイミングになったのか、これはいかんと突貫で取り掛かったのか、今となっては記憶の彼方。たった3年前のことなのに、ずいぶん昔のことのように感じます。これ迄も様々な作品を配信してきましたが、今年度からは劇場での上映会にも本格的に取り組んでいるとのこと。

今でも年に数回「維新派観たいよおおお!!!」とキエーとなるもんで、今回の上映には小躍りしました。二度と観られないことが分かっているだけに、とても貴重な機会。というのも、維新派の「二度と観られない」は、数ある舞台作品のなかでもちょっと特殊だからです。

まず「ヂャンヂャン☆オペラ」というあまりにも独自なスタイル。大阪弁ケチャ、独自の混成言語。5拍子、7拍子の変拍子による所作。あまりに独自なスタイル故、体得に時間がかかります。そして上演場所。野外に拘り、その土地で暮らす人々と交流し、歴史や民俗からストーリーを組み立てる。巨大な舞台美術を建設する。「何もない全くの更地の状態から、舞台、客席、宿泊場所までを作り、上演時はカーニバルの異空間を作り上げる。公演後は釘一本残さず、再び更地に戻す」(オフィシャルサイトより)。一から街をつくるようなものです。そしてそういうことが出来る場所は、離島だったり、湖上だったりする。観に行ける人は限られている。

そんな唯一無二の世界を創りあげた維新派は、主宰の松本雄吉さんが2016年に亡くなったことで、2017年いっぱいで解散しています。オフィシャルサイトは残っているものの、活動終了のお知らせは消え、アーカイヴページだけが残っている。なんだか維新派そのものが幻だったかのよう。台本は残っているけれど、あの“街”を再び創りあげようと思う酔狂な人・集団が、今後現れるとは思えないのです。

土地の風景を含めた、壮大な作品世界を記録しておく意義を制作者側も感じていたであろうことから、映像自体はかなり残っており、『トワイライト』もDVDが販売されています。EPADは今回、維新派が所有しているハイヴィジョン映像を8Kにアップコンバートし、音響はイマーシブサウンドにリミックス。めでたく劇場での上映が叶いました。2015年に上演された『トワイライト』は、松本さんが手掛けた最後の作品(2016〜2017年の『アマハラ』は、構想途中で亡くなった松本さんが残したノートや資料をもとに、メンバー全員で完成)。イマーシブサウンドを手掛けたのは、現場での音響をデザインした田鹿充さん。

・田鹿 充┃EPAD┃作品データベース
一覧を観てあー! と思う。維新派だけでなく、飴屋法水、マームとジプシーの作品も。野外劇場での仕事も多い。信頼しかない!

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会場は奈良県曽爾村健民運動場。日没前に開演し、迫る夕闇とともに時間を過ごす。グラウンドにもともと設置されているナイター照明も効果的に使われる。場面によって雨が降っている。ぬかるんでいる地面と乾いている地面が交互にある。複数の公演を収録し、一本の作品にしたようだ。

野外だと聴き取りきれないこともある台詞がちゃんと届く。内橋和久さんの生演奏が、微弱音から大音響迄ダイナミックに響く。屋内の密閉された空間ならではの、頰に振動が触れるような迫力。

維新派の作品は通常の劇場とは比較にならない程広い空間を使うので、最前にいる演者の発声と最奥のそれにはディレイが発生しそうに思うのだが、それがないのがずっと不思議だった。今回は映像作品になっているので、ライン録りした音をディレイなく鳴らせる。しかしこれは、実際に現場で聴いてもそうだったのだ。『トワイライト』は今回が初見だが、他の作品でも、いつもそうだった。演技エリアの中間くらいの場所に、左右1台ずつスピーカーらしきものが置いてあるのが見える。それをモニターで使っているのだろうか。

そして演者は全員がマイクを装着していると思っていたが、アップの映像で観るとそうではなかったことが分かる。所謂台詞をいう演者の他に、同じフレーズを謡うグループの、それぞれ数人だけがマイクを着けている。“ケチャ”は芯となるソロイストとコーラス隊に分かれていたということだろうか? それがあのマジカルな響きになるのか……そうすると動きにもディレイが起きそうなのだが、やはりそれは感じられない。ただ、こちらはリズムに合わせてひとりずつ移動していくものが多いので、ズレがあったとしても輪唱のように観ることが出来る。

それにしてもどうやったら客席迄ズレなく届けられるんだ? 仕組みがやっぱり分からない。

アングルが変わるというのも映像ならでは。定点で観る“生の舞台”とは大きく違うところだ。アップが観られる。演者たちの白い衣装に、白塗りの顔に、泥の沁みが少しずつ増えていく。ぬかるみに滑る脚が見える。虫が飛んでいるのが見える。白く覆われた顔に、揺れる表情が見える。ワタルが、ハルが、あんな表情をしているとは。これを現場で目にすることは難しかっただろう。

漂流、移民。常にあるキーワード。ボートピープル、キューバから逃れてきた同性愛者。1980年代からあるモチーフは、上演された2015年でも、その2015年から8年経った今でも有効なのが悲しい。人間に飽きたから鳥になる。それが憧れをもって語られるのが悲しい。そうして旅団は去っていく。

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自宅で配信を観られることはとても便利だし、有難い。しかし、劇場の良さは多くの観客=見知らぬ他者とともにその劇世界を体験出来ることだ。終映後、無言で退場する人々の顔を見る。笑顔のひと、放心したような表情のひと。それぞれの感想、記憶を抱えて帰路につく。私たちは一緒に維新派を観たのだ。

あと天候と気温に左右されないのはいいね、トイレが! とか切羽詰まらないで済む(笑)。まあ雨や寒さも維新派の体験と記憶なのだが。

ロビーでは当時のパンフレットや台本がほぼ半額で販売されていた。在庫セールの意味合いもあったのかも知れないが、今あの台本(!)を実際に見られる機会は少ないので有難い。楽譜というか図面というか……ここ迄システマティックに書かれているなら、再演、出来なくはないかも? と思う。しかし今、この国にそんな余裕があるのかとも考えてしまう。場所探し、セットの建設、演者のレッスンと集団の維持。クリエイションに関わる人々の関係性。長い時間と多額のお金が必要だろう。いつかどこかに、それを実行に移す酔狂なプロデューサーが現れてくれればいいな、なんて思う。

それはかつての維新派と、その観客がひとり残らずこの世を去ってからでもいいのだ。一冊の台本から、誰も観たことのない世界が生まれる。それは現在の演劇も同じだからだ。

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・2015年 トワイライト┃維新派オフィシャルウェブサイト
画像も素晴らしいので観て〜

・トワイライト┃EPAD┃作品データベース
村の歴史や、口承による300年の伝統を持つ舞いを作品に取り入れ、この曽爾村で上演することが重要な作品となりました。
作品全部がこんな風に創られていたので、土地の歴史そのものも作品になっている。「二度と観られない」は「余所で観られない」でもある。
デジタルアーカイブデータは早稲田大学演劇博物館のAVブースで視聴可能です(要予約)



2023年10月20日(金) ■
『ウンナム』

『ウンナム』@韓国文化院ハンマダンホール


原題『웅남이(ウンナム=発音はウンナミ)』、英題『Bear Man』。2023年、パク・ソングァン監督作品。『コリアン・シネマ・ウィーク2023』の1本。上映前にソングァン監督のメッセージ動画が流れました。

ソンウンさんがクマの役です。いやマジで。「ニンニクとヨモギを100日間食べると熊が人間になる」という檀君(タングン)神話から発想された物語だとか。

・檀君(タングン)神話┃Life in Korea

仲良く森を駆け巡っていた双子のクマは人間になり離れ離れ。ウンナムは子どもがほしい夫婦に保護され愛情たっぷり(主に母ちゃんから)に育てられ、ウンブクはヤクザに拾われ虐待を受けて育つ。人間離れした(まあクマだったからな)耳と鼻、そして身体能力。川に潜り魚を捕り、畑を荒らしたイノシシと会話で交渉し、スズメバチの巣も簡単に駆除。冬眠しがちなのが玉に瑕なウンナム。ちょうかわいい。木を削っただけの短剣でバッタバッタとひとを刺し、スーツ姿で暴れまわるウンブク。ちょうかっこいい。片やかわいくてぼんやり、片やコワモテで残虐。それでもふたり(二匹)は兄弟で……。

村のひとたちは彼をクマだと知っているのか知らないのかフツーに接してるし、ウンナムの両親も「クマだから…」と思っているもののフツーに育てているのがファンタジーで良い。愛情を知らずに育ったウンブクは、そんな彼らをちょっと羨ましそうに見てる。遂に対決することになったふたりが下した決断は……やだせつない! そこで終わらないのがこの作品のいいところで、なんだかんだで大団円。同じ見かけなのをいいことに、あちこちに引っ掛け問題みたいな演出が入ってそれはちょっとしつこかったかな(笑)。観る方も「えっ、入れ替わっちゃった?」とかハラハラしどおしで落ちつかなかったわ……。ふたりが水中で見つめあうシーンもやたら長いんだけど、その表情がやたらよくて眼福でした。恐怖と困惑と慈愛、全部入った表情だった。いやー終始ニコニコで観た。

『僕の中のあいつ』でも一人二役を演じたソンウンさん。『僕の〜』はおれがあいつであいつがおれでのアレで、いじめられっこの高校生とコワモテ財閥社長の心が入れ替わっちゃうというお話でした。冒頭にも書いたけど、かわいいと格好いい、コメディもシリアスどっちもイケて、しかもその落差が魅力になるというのをご本人がよくわかってる。どんな表情をすればかわいく見えるか、どんな動作をすればキマるか熟知している。かわいいに関してはそのあざとさすらかわいいと思えるからな! 才能ですね! あと間が巧いというか、あざとかわいいのにボケが天然に見える。「クク…ククク……」「……81?」のとことか、客席がドッと湧きましたよ、笑いで。てか韓国にも九九があるのね。で、9の発音も「ク」で日本と一緒なのね。知らなかった。

・韓国語の九九 구구단/九九段┃韓国語 英語トリリンガル♪楽習ブログ

今年のソンウンさんは若者との仕事に意欲的なようです。『配信犯罪』に続き(こっちが後かな?)、パク監督も今作が商業長編デビュー作。後述リンクによると、監督はソンウンさんを想定して脚本を書き、ふたりでアイディアを出し合い乍ら撮影を進めていったそう。タイトルの「ウンナム」は主人公の名前で、「ソンウン」から「ウン」をもらったそうですよ。そうそう、双子は25歳という設定でした(!?)。実年齢の半分……いやーかわいいからいい! クマ時のウンナムとウンブクが戯れるオープニングアニメも、クマとイノシシのCGもとてもかわいらしく、最後には家族愛にほろり。血が繋がってなくても、クマでも(!?)、家族になれるんだー! と思えちゃうハートウォーミングな作品でした。相次ぐ熊害で困っている今の日本、ウンナムがいれば交渉出来るのになあなんて夢想してしまうくらいにいい話。

あ、あとネタバレ。最後の最後にカメオ(特別出演)でチョン・ウソンが出てきて場内がどよめいたよ! 知らなかったひと多かったみたい。私も知らなかったよ……ビックリして「ええ!?」とか声出しちゃった。カメオ出演ってどこ迄アナウンスしたらいいか難しいよね……あんまり内緒にしすぎるとファンが見逃しそうだし。出ますよと発表だけはしといてどの場面、どの役かは秘密、というのが自分としては理想だけど、絶対知りたくないひともいるだろうしなあ。ちなみにイノシシ役でした(微笑)。

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・地下駐車場でウンブクが襲われるシーン、『新しき世界』みがありました。意識しての演出かな?

・ビニールハウスカジノが結構衝撃だった。あっちではあることなのか!?

・某ダルス氏がメインキャストでガッツリ出ているので、手放しでおすすめ出来ないのが痛い。かわいく楽しい作品だけに勿体ない気も。妻を始め女性にやり込められるシーンが多かったのは配慮だったんだろうかとちょっと思ってしまった

・お笑い芸人パク・ソングァンが長編映画を初演出…パク・ソンウン主演作「ウンナム」のコミカルアクションに期待┃Kstyle
もしこの映画(興行)がだめになったら、演出をしたがる後輩たちの道を僕が阻んでしまうのではないかと思いました
僕に対して、偏見を持って見られたらどうしようという気持ちが大きいです。お笑い芸人兼映画監督として、多くの負担がありますが偏見を破りたいです
本国での制作報告会。ソングァン監督は芸人さんなのですね

・映画『ウンナム』で1人2役に挑戦のパク・ソンウン、「パク・ソングァン監督の覇気で出演を決めた」┃KBS World
偏見があっても僕たちは結果で勝負をすればいいのだから。観客たちに『お笑いタレント出身の映画監督なのに思ったより上手だね?』と言わせればいいだけだ。新人監督は、現場で俳優たちが遊べるように機会を与えてあげるのが重要だと思うが、そんな面でパク・ソングァンは賢い監督だった
ソンウンさん理想の上司とかいわれそう。てかこの方、年長者としての立場をしっかり踏まえた発言に意識的ですよね。ウソンさんもそうだけど、才能と意欲のある若者に活躍の機会を与えようという意志がしっかりある

・「ウンナム」パク・ソンウン、一人二役で25歳を演じた感想を語る“決闘シーンには実兄が登場”┃Kstyle
ウンナム、ウンブクの決闘シーンでは、パク・ソンウンの兄がウンブク役を務めたという。彼は「僕と同じフィジカルは、兄が唯一です」と説明した。
へー! 後ろ姿だけでしたが、確かに体格はほぼ同じ、というか区別つかなかった。ソンウンさんは188cm、お兄さんは192cm。お父さんは191cmだそうで、長身な一族ですね。ちなみにお兄さんはモデルさんで(今もそうなのかな?)、ソンウンさんが芸能界を目指すきっかけにもなったそうです。
ウソンさんの話もこちらに出てますね



2023年10月14日(土) ■
『配信犯罪』、ケムリ研究室 no.3『眠くなっちゃった』

『配信犯罪』@シネマート新宿 スクリーン1


原題『라방(ラバン)』。2023年、チェ・ジュヨン監督作品。「라방」を翻訳アプリに入れるとそのまま「ラバン」と出る。どういう意味? と調べてみたら。

・라방(ラバン)=「ライブ放送」┃TODAY'S韓国語┃韓国旅行「コネスト」

「라이브 방송(ライブバンソン)=ライブ放送」の略語なんですって。生配信のことですね。

全くのノーマークで、予告編を映画館で観て初めて知った作品。恋人が怪しい生配信の餌食に! 青年は彼女を助けられるのか? というサスペンススリラー的な内容らしく、うわ〜すごいヤな話っぽいな〜胸クソ悪そうだな〜と思ったのですが、ひっかかったのはパク・ソンウンが出ていること。生配信の主がソンウンさんで、クレジット的にはこちらが主役らしい。原作は学生が撮った短編、チェ・ジュヨン監督は今作が長編デビュー。題材もなかなかリスキーなもの。こうした作品の主役をソンウンさんが引き受けるということは、ただの悪趣味な内容という訳ではなさそう…いやしかし……とそれでも迷っていると、試写を観たひとが「最後に成程と思う展開がある」というようなことを書いている。やっぱり観てみるか、と思った次第。

で、やっぱり胸クソは悪いのです。そして最後に成程とも思った。観てよかったと思った。でも、心は晴れない。直接的な残虐場面がないため、今作には年齢制限がありません。何故そうなのか。配信を、web上のコンテンツを楽しむ誰もが見るべき、と迄はいわなくても、知っておいていいことだからです。興味本位で闇配信を観てしまう。犯罪に接しても、見て見ぬふりをしてしまう。そんな傍観者にスポットが当たっています。誰もが加害者になり得る。以下ネタバレあります。

韓国で実際に起きた「n番部屋事件」がもとになっているかと思いきや、脚本は事件が公になるよりも前に書き始められていたとのこと。「n番部屋事件」の詳細はあまりにもむごいのでこちらで詳細は書きませんが、とにかくおぞましい事件です(後述リンクに概要あり)。3700人強が逮捕されましたが、サイトの閲覧者数は26万人にものぼります。逮捕されなかった傍観者は罪に問われていません。罪に問うこと自体が難しい。ソンウンさん演じる“ジェントルマン”とその仲間たちは、そんな傍観者たちを表舞台に引きずり出すのです。

それが判明するのが最後の数分。観る側としては「これは配信者側に何らかの思惑がありそうだなあ」と思い乍ら観ていて、最後に「ああ、やっぱり」とは思うのです。この手段を選んだ彼らは、加害者に、傍観者に、無関心だった人々に、どれだけ苦しめられたか。いや、今も苦しめられているか……過去形ではなく、永遠に続くことなのだ。計画がうまくいったとしても、被害者は元の状態には戻れない。でも、傍観者たちに気付いてほしい。自分たちがしでかしたことを。いや、自分たちが何もしなかったことを。そんな思いに満ちた幕切れ。

いやもうホントソンウンさん、ひとをムカつかせる演技巧いよな。いや演技全般巧いんだが。ひとを笑わせたりホロリとさせたりする演技も巧いのよ。わかっているのにムカつく、素晴らしい。あーホントムカつく、このクズ野郎のゲス野郎があ! と迄思う。それだけに最後の数分が胸に迫る。『空から降る一億の星』のときにも思ったけど、ソンウンさんの泣き声ってなんか独特ですよね。なんかギョッとする声で、猛獣の咆哮っぽいというか。

彼女を救うべくがんばる彼氏役のパク・ソノも迫真の演技。もはや気の毒。とりあえず友人関係を見直しなさいとは思った(あいつらホントムカつくな〜!)。あのあとふたりはどうなったんだろう。元の幸せな関係には戻れないよなあ。いや、そもそも、彼女は目的ありきで彼に近づいたのかも? 疑心暗鬼になり、やはり後味は苦いのでした。

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・配信犯罪┃輝国山人の韓国映画
いつもお世話になっております。この手の短期上映作品はパンフレットが作られないので助かる

・「性暴力の傍観者も加害者」“n番部屋事件を予見”した韓国映画『配信犯罪』が伝えたいこと┃現代ビジネス┃FRaU
FRaUの記事だけど、現代ビジネスのリンクから読みました。ビジネス誌で記事になっているところが興味深い

・16歳の息子が韓国史上最悪のネット性犯罪「n番部屋事件」の実態を知り感じたこと┃FRaU
事件の真相を知りたい、と考えて映画を見ることも「加害行為」なのでは、と指摘されて言葉に詰まった
ネットがもともと危険なんじゃなく、ネット自体と使う人間がまだ未熟だからこそ、こんな犯罪が起こるんだと考えたら、犯罪を防ぐ仕組みを考えて、開発していこうって思える。学校で教わるようなネットリテラシーじゃなくて、ネット世界で気持ちよく安全に生きられる常識を新しく作っていかなきゃ、って感じている先輩や友だちもたくさんいるよ
関連記事。そうなんだよね……持てる知識や技術はいいことに使いたい。でも、そのために事例を知ることは加害になり得る。「ネット世界で気持ちよく安全に生きられる」ことが常識になるのは、いつのことだろう

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ケムリ研究室 no.3『眠くなっちゃった』@世田谷パブリックシアター


遅い終演にも関わらずカーテンコールが3回。野間口さんが「ごめんごめん」ってジェスチャーをし乍ら慌てて出てきました。もう帰り支度を始めていたのかな。緒川さんも北村さんも感無量の表情。

ケラさんと緒川さんが見ている世界は憂いに満ちている。表裏一体の悲劇と喜劇は、だんだん悲劇の侵食が増しているように感じる。少し前だったら、「密告したのは誰だ?」という問いに対して全員が手を挙げるシーンは、笑えるものとして用意されていたように思う。今回はそれを笑うことが難しかった。互いを監視し密告し合う滑稽さより、生き残るために必死な人々の様子があまりに痛ましく映ったからだ。この日、このシーンで客席は静まり返っていた。他の日はどうだったのだろう。

ディストピアものは虚構だからこそ、観客は絶望をなんとか飼いならし、娯楽として観ることが出来る。今作はあまりにも現実に近づいており、憂いは増すばかりだ。

しかしケラさんと緒川さんは、その憂いのなかに宝石を見出す。街に暮らす人々は、皆キートンやチャップリン、ロイドのような白塗りメイクをしている。死人のように見える。しかし青白い顔だからこそ、わずかな光をも捉え、舞台でその輝きを増す。市井の人々は懸命に生き、生きるため互いに騙し合い、協力し合い、寄り添い合う。サーカスの団員たちは、常にひとと違う道を探す。そこに脱出口がある。歌手は歌に命を与える記憶を欲しがるが、ひとひとりの心を喰うことは、自分もろとも破壊する程の力を持つ。そして記憶を失ったひとは、程なくその命を終える。思い出すらなくなったら、ひとは生きていけない。ただ、思い出が降り積もり続けることは拷問に等しい。人間に与えられた唯一の平等は、誰もが必ず死ぬことだ。なんて悲しくて、なんて喜ばしいことだろう。

小野寺さん率いるデラシネラの面々(全員がデラシネラに所属、或いは客演したことがある)が、妖精のようにも、天使のようにも見えた。壁に阻まれ、外に出ていけないひとたちの手をひいて空へと浮かび上がる力を持っているような気すらした。しかしそれは、アニメ『フランダースの犬』のネロのように、神のもとへ帰るときなのだ。そして劇中いわれたように、神は不在だ。常にどこかへ出かけている。

神が不在の街で生きる娼婦は、理由があったりなかったりで盗みを働いたり、ひとを殺したりする。理由がなくても大家は彼女をかわいがり、同時に蛇蝎のごとく忌み嫌う。監視員は自身に危機が及ぶと理解し乍らも恋に落ちる。緒川さんの魅力はそうして描かれる。聖人でも俗人でもなく、天使でも悪魔でもなく、それが人間なのだと示す。人間に魅入られる北村さんも人間くさい、魅力的な人物像だった。

野間口さんと近藤さんは、複数の役柄を通して劇中世界のMCのような役割を果たす。ふたりの落ちついた、静かでいてよく通る声が効いている。犬山さんと山内さんがシリアスなシーンを笑いに展開してくれる。ともすれば気が滅入る解釈に偏ってしまいそうなところ、随分助けられた。ケラさんが描く架空の国の文化や、通貨、単位、いきもののネーミングがとても好きなのだが、それも現実を虚構として観る助けになった。今回はミツクビガメにズキュン。み、見たいミツクビガメ! 名前がもうむちゃかわいい! 鈴木光介さんの音楽も素敵でした。篠井さんの歌声がずっと耳に残っている。

プロジェクションマッピングという言葉が一般的になるよりもずっと以前から、ケラさんは映像とムービングによるセノグラフィーに意識的だった。映像の上田大樹さん、振付の小野寺修二さんと組むようになってから、それはますます磨かれていった。世田谷パブリックシアターというハコにおいて、それらが見事な形で結実した。スケジューリングはたいへんだろうけど、キャストを誰ひとり変えることなくいつか再演してほしい。そのとき世界はどうなっているだろう。

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・ケムリ研究室no.3『眠くなっちゃった』東京公演10月7日(土)18時公演より開幕及び9日(月祝)18時追加公演決定のお知らせ(10月5日更新)┃【公式】株式会社キューブ オフィシャルサイト
no.1『ベイジルタウンの女神』、no.2『砂の女』ときてケムリ研究室も3作目。コロナ禍のなかで旗揚げ公演を行い、その後も茨の道を進む。ケラさんは「どの作品でも皆たいへんだ」といいそうだけど、今回のアクシデントは想定外過ぎた。劇場設備のトラブルで、初日からの7公演が中止になってしまった。急遽追加公演をねじ込んだとはいえ、半分近く休演になるなんてな…なんてことだよ……どんなに悔しかっただろう。怪我人等出なかったことは本当によかった

・キャンセルのお知らせや払い戻しの手続きに関わる制作費は勿論だけど、ケラさんのツイートを見ていてキャストのお弁当とか、そういうものも7公演分が損失してしまったんだよなあと思う。なんとか補填出来るといいが……

・お茶でもしようとちょっと早めに三茶へ行き、キャロットタワー周辺を散歩していたら、マチネ終わりの観客がどどっと出てくる。ソワレの開場迄1時間あるかないか。この時間で客席を整えるスタッフはたいへんだ。ケラさんの舞台は大概そうなんだが。演者さんもほぼ劇場にカンヅメなのではないだろうか。残りの公演、全て無事に終わりますように