2003年08月03日(日) |
あの大樹は、日々新しい緑を芽吹かせている。まだ全身はぐるぐると大きな包帯で巻かれているのだけれども、その割れ目から、緑はぐいぐいと頭をもたげ、そして辺りに降り注ぐ陽光を深く胸いっぱい吸い込まんと手を広げる。 あぁ、今、彼は変化してゆこうとしているのだな、と、私は、その姿を見ながら思う。 もしこの緑がいつか、昔のように大枝になって、ゆっさゆっさと風に揺れる日が来たとして。 それはでも、もうかつて私が愛してやまなかったあの大樹ではない。どんなに同じように姿が重なって見えたとしても、それは、同じではない。 大樹は変化してゆく。この、今私の目の前でちろちろ揺れる緑の葉から始まって、彼は再生するのだ。同じ場所で同じ根をもちながら、それでも一歩一歩、新しい姿へと。 連綿と続く命。その命という一本の糸が織り成すのは、一つの模様だけではないのだな。たとえばこの緑が、赤子のような手の姿から若枝へ、そしてやがて大枝へと変化してゆくように、命はいつだって、少しずつの変化を孕んでいる。 決して同じではない。いつだって唯一の、模様を編み出し続けている。そしてそれは、命果てるまで連なり。 その命はまた、どこかで誰かに引き継がれてゆくのだ、きっと。 そうしてどこまでもどこまでも連なってゆくのだ。ありとあらゆる想いをそこに孕みながら。 私はきっと、そんなこの大樹を愛し続けるんだろう。姿形を、時とともに変化させながらそれでも生き続ける大樹を。その想いはまるで私の内奥の、底の底に、黙って朗々と流れ続ける水流のように。 |
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