2003年08月28日(木) |
娘の隣で眠る。うつらうつらと。 突然襲ってくる金縛り。まただ、どうしよう、まただ、無駄だと知りながらそれでも体を動かそうと試みる、試みるほどに金縛りはきつく、私を雁字搦めにする。すると耳の奥の奥から響いてくる靴音。足音。 コツ、コツ、コツ。徐々に徐々に大きくなり。私の息は荒くなる。来ないで、やめて、来ないで。コツ、コツ、コツ。大きくなる、近づいて来る、ほらもうすぐ後ろに。 いや、玄関の鍵は閉めた、窓だってちゃんと閉めた、だから大丈夫、誰かがこの部屋に入ってくるなんてあり得ない、そんなのあり得ない。大丈夫、大丈夫なんだったら。 いくらいいきかせても無駄。靴音は足音は大きくなり、もう私の心臓ははちきれんばかりにばくばくと鳴る。 あぁもう駄目だ、もう捕まってしまう、私はまた。 叫ぼうとしても声が出ない、喉がつまる、なんとかそれでも絞り出そうとするのだけれども、それでも声は。失われて。 あぁ駄目だ、もう駄目だ、私はまた。 その時、娘が寝返りを打つ。金縛りで身動きならない私の体を勢い良く蹴る。 その途端、私の体はふっと解け。
辺りは真夜中。誰もいない、私と娘の他には誰もいない、薄暗い部屋の中。それはいつもと何の変わりもなく。そう、ここには私たちがいるだけ。 まだ残響の残る頭を軽く振って、私はなんとか身を起こす。そう、あれは幻聴。分かってる、ただの幻。 布団の上、大の字に転がる娘に、布団を掛け直す。そして私はまだ痺れが残っているように感じられる体を撫でさすりながら立ち上がり、換気扇の下、煙草を一本吸ってみる。 ぽた、ぽた、ぽた。 頬を伝って落ちる涙。 ぽた、ぽた、ぽた。
何度でも私はそうやって、あの日あの時に呼び戻される。そのたびに私は死ぬ。生きながら死ぬ。記憶とはなんて残酷なもの。
気づけば煙草はもう手元で灰になっており。 もう一度眠ろう。そうすればきっとまた今日が始まる。 |
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