見つめる日々

DiaryINDEXpastwill HOME


2003年09月01日(月) 
 時々、自分の内奥から迸り出る激流に、私は翻弄される。

 それはたいてい、突然にやってくる。黙々と過ごしている日常の只中、まさに突然やってくる。突然だから、いつも私は驚かされる。驚いて、立ち竦む。おろおろする。そうしてしばらくしてやっと、今自分に起きてる事態を受けとめられるようになる。たとえば今日もそうだった。それはやっぱり突然だったから、私は何が起こったのかすぐには分からず、動悸の収まらない胸のうちを、扱いかねて立ち竦んだ。そうしてやっと。
 あぁそうか、私はただ泣き喚きたいんだな、と。無理なことも無茶なことも全部、ぶちまけて、いやいやをして、まるで子供のように泣き喚きたいんだ、駄々をこねて泣く子供のように。
 そのことに気づいた時、涙が出た。ぽろぽろと涙が出てきた。なんで泣くんだろうと悔しくなったけれど、涙は止まらなかった。畜生と思ったけど、やっぱり涙は止まらなかった。
 何もかもが恐い、何もしたくない、もう何にもしたくない、全部放棄して閉じこもってしまいたい。閉じこもれるなら何処までも何処までも穴を掘って、その穴の奥深く入り込んで膝を抱えてただじっと、じっとそうやって隠れてしまいたい。
 そう思っている自分がいた。どうしようもなくそう思っている自分が明らかにここにいた。この胸のど真ん中に。
 逃げ腰になって、耳を塞いで、目を塞いで、もうやめて、もういやなの、放っておいて、私をそっとしておいて、と、決して叶うことのないことを泣いて喚いて、欲している自分が。

 そんな自分が、私は辛かった。そうできないことが辛いのではなく。
 そんな自分が自分の中にいるということが、辛かった。悲しくて、情けなくて、泣くしか術がなくなってしまった。

 どうやったって、自分でこの現実を背負っていくしかないのだ、と、承知している筈なのに。なのに、なのに、なのに!

 私はそんなに強くない。いくら笑って、強がって、平気そうに振舞っていたって、本当は自分がそんな強い人間じゃないことは、自分が一番知っている。怒涛のように次々押し寄せる出来事から私が実はどれほどのダメージを食らっているのか、そのことも、よぉく知っている。
 でも、だからどうだって言うんだ。現実は待っちゃくれない。どんどん押し寄せてくる。私はその次々に押し寄せる波を、何とかして越えてゆくしかないのだ。
 そう、私が強かろうと弱かろうと、そんなこと関係なく。

 涙がぽろぽろ頬を伝うのを感じながら、じっと、じっと膝を抱いてみた。そうすると心臓の音がよく聞えるから。どくっ、どくっ、と、脈打つ私の内部の音がよく聞えるから。
 あぁそうだよ、私は強くない、こんなにも弱い、でも、だからどうだっていうんだ、強かろうと弱かろうとそんなことどうだっていい、そんなことは問題にならない、大事なのは、大事なのは、私がそれでも生きてゆくのかってこと。こうした現実の中でどうやって生活を営んでゆくのかってこと。
 そう、私は、それでも生きてゆくし生活してゆく。結局私はそれを選ぶ。それを選ぶなら、もう答えは出ている。
 泣くのを止めて、手近なところから始めるんだ。たとえば夕食の支度。今夜の味噌汁は何にしよう。冷蔵庫を開けて具材を適当に選んで。たとえば履歴書書き。一度辞めてしまった仕事がそんな容易にまた手に入るとは思えないけど、何枚だって履歴書書いて、ともかく送り続けるしかない、あちこちに。たとえば引っ越し先探し。この部屋にいられるのはもうそう長くない。娘の保育園からそう遠くない場所で、なおかつ私も仕事のしやすい場所で、どんな小さくても部屋を探さなくては。
 手近なところでもこれだけある。その一つ一つを、ともかくも潰して、私は進んでゆくしかない。それがたとえ、これっぽっちのことであっても。

 そう、私は強くない。とっても弱い。だからしょっちゅう潰れる。倒れるし転ぶし、危なっかしいことこのうえない。でも。
 でも。その代わり。
 私はとってもしぶとい。しぶとくなきゃ、ここまで生き残ってはこれなかった。そう、私は、とってもしぶとい。それはきっと、私に与えられた大切な武器。私の味方。
 だから、大丈夫。いっぺんに次々こなせなくても、ひとつずつだったらこなしていける。不器用だけど、こなしていける。そう、私はしぶといんだから。

 とりあえず顔を洗って、髪を結わえ直して、深呼吸して。
 顔を上げて、また一歩、歩こう。


遠藤みちる HOMEMAIL

My追加