2003年12月15日(月) |
虫だ、虫がいる、今夜も。 私は布団の中横たわり、彼らをじっと見つめている。 視界の左方がざわめくので、目の玉を動かしてみる。すると、壁と天井とが作る角境から、虫がどんどん産まれてくるところが見える。あぁ、虫が、虫が増えてゆく。 やがて天井を埋め尽くすほどに増えた虫たち。それぞれ好き勝手に蠢いている。そうしている間にも虫は、増殖し続けている。 おかしなもので、私はこの状態に少しずつ慣れてゆく。最初の頃の驚愕は、もう殆ど掻き消され、今私の中に在るのは、諦観にも似た、まさに淡々とした何者かだ。
さく、さく、さく。 微かな音が聴こえる。 さく、さく、さく。 それは外界からではないことを、私はもう知っている。そう、この音は、私の内側から生じる音なのだ。虫が私の世界を噛みしだくその音。 虫の細い糸のような脚が今、私の頬を掠めた。 しゃわり。 しゃわ、しゃわり。 こうやって私はこいつらに侵蝕されてゆくのだろうか。私の内界で音が木霊する。 さく、さく、さく。 腹のいっぱいになった虫たちがゲップをする。そしておもむろに、私の体内に卵を産みつけようと、今。 あぁ、やめてくれ、それだけはやめてくれ。私をいくら侵蝕しようとそれは構わない。けど、私を苗床にすることだけはやめてくれ。私は虫になりたくない。おまえたちと同類になって誰かの心の中を食い散らすそんな奴にはなりたくない。 私はありったけの力を込めて体の向きを変える。そして、ぎしぎし軋む背骨の音を聴きながら、私は這いずって這いずって、台所へ。灯りをつけた途端、虫たちは消え去る。でも。 音は。音は。
さく、さく、さく。
聴こえる。聴こえ続ける。奴らが私の心を噛みしだく音。おい、そんなに美味いか。私はぼんやりと白壁を見つめながら問うてみる。 さく、さく、さく。 音だけが、響き渡る。
窓の外、まだ夜明けは遠い。 |
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