2005年04月24日(日) |
眠ろうとしても眠れず、布団から這い出し、なのに畳の上クッションを抱いてころんと横になったらうとうとと。はっと気がついて起きあがったものの、布団に入る気力は出ず。結局いつもの、窓際の椅子に座り、ぼんやりと外を眺めていた。 真ん丸い月が、すっきりと夜闇に浮かんでいる。眺めているうちにも少しずつ月は傾いてゆき、それはそのまま、時がそうして過ぎてゆくことでもある。分かっているけれども、だから何ができるというのだろう。時ばかり過ぎてゆくその突端で、私はただ、ぼんやりと立ち尽くす。 何度も浮上を試み、そのたび失敗を続けている近頃の私を察知した友人が、真夜中過ぎだというのに電話をかけて来てくれる。せっかく電話が繋がったのだから、楽しい話をしようと思うのに、ふと気を抜くと、私の、これでもかというほど私的な話に終始してしまっている。 気づけば、これまで殆ど口に出したことのないことも、もう見たくないと葬ったはずのことも、しゅるしゅると喋っていた。一体こんな喋り方で相手に伝わってくれるのだろうかと、途中で何度か思ったけれども、躊躇っていたらもう二度と、声にすることはできないかもしれないと、そう思ったら、躊躇いを無視して喋り続けるしかできなかった。 結局、お互いの子供がぐずって起きてしまうまでずっと喋っていた。それはもう夜明け近く。月はもう、地平線近くに沈んでいる。 それにしても。自分はなんて恵まれているのだろうと思う。こんなときに電話をかけてくれる友人がいて、こんな滅茶苦茶な話をしても黙って耳を傾けてくれる友人がいて。だから浮上しようと思うのに。なかなかうまく浮上できない。あっぷあっぷしっぱなし。そんな自分に腹が立って来る。でも、どうしようもできない。 珍しく風のない夜で。窓を開けていても、冷えた空気が遠慮がちに抜き足差し足で忍びこんでくるだけ。私は薄れ始めた闇色の空をもう一度見つめ、娘の隣に横になる。外ではもう、雀が囀っている。
日曜日。朝一番から、娘は水ぬりえなるものを為している。昨日ばぁばとじぃじにねだって買ってもらったのだ。真剣な表情で筆を動かす彼女。せっかくそこまで一心に為している彼女の邪魔をしないよう、私は足音を忍ばせて彼女の後ろを通り、ベランダに出てみる。 今、ミヤマホタルカヅラが花盛り。次から次に咲いてくる。蒼い小さな星の花。昼間に輝くその星は、いつだって私の心を和らげてくれる。 そして、薔薇の樹たち。ミニバラのうどんこ病は全然よくならない。それどころか、大輪の白い花が咲く薔薇の樹まで、うどんこ病の葉が出てきた。ひとつひとつ摘んでゆく。せっかく出てきた新芽なのに。もったいないという気持ちを何とか抑えて、とにもかくにも摘んでゆく。そして最後、消毒液をスプレーする。 それにしても、今日はなんて気持ちの良い天気なんだろう。憂鬱感が抜けない私の上にも、その空はちゃんと広がっている。思いきり伸びをし、ついでに欠伸もする。 昼前、娘を後ろに乗せて自転車で埋立地の方へ。人ごみを避けてあちこちを走る。途中、大きな肉まんを二つ買って、私たちは空き地の際に座り込む。ママ、もっと食べたい。じゃぁママの残しておくから食べていいよ。はぐはぐと動く彼女の小さな口。私はまた空を見上げる。 憂鬱な日もあるさ、重苦しくてしんどい日もあるさ。余計なことばかりを思い出し、それに押しつぶされそうになる日もあるさ。もうどうでもいい、全てを切り刻んで終わらせたくなる、そんな日だってあるさ。娘がここに存在してくれることに感謝しながら、同時に、ここに君が存在していなければ私は全てを木っ端微塵にして終わらせることもできるのになんて唇を噛む日だってあるさ。 それでも私は、生きることを諦めない。生き延びることを諦めたら、それこそ本当に終わりなんだ。私は空を見上げたまま、自分の左腕を撫でてみる。ぼこぼこと盛り上がる数え切れないほどの傷痕がそこに在る。でも、それでもいいんだ。生き延びることを諦めさえしなければ。そうすればきっと、明日は必ず今日になる。そして私は一日をまたひとつ、越えてゆく。 ああ、空が、青い。 |
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