見つめる日々

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2005年04月27日(水) (4/28昼間)
 目を覚ますと、カーテンの向こうが薄明るくなっている。毛布を身体に巻きつけたまま立ち上がり、カーテンを開ける。あぁ今日は晴れ渡るのだなと、空を見上げて思う。そして凄まじいほどの風。ベランダの薔薇の樹が、折れそうなほど撓っている。
 毛布を畳み、着替えて洗面所へ。顔を洗う。洗い終えて私は、鏡に見入る。何か変わっただろうか。鏡に映る自分の顔を、じっと見つめる。何か、変わっただろうか。鏡の中の自分と目が合って、私はちょっと笑ってしまう。別に何も変わらない。いつもの私がそこに在るだけ。でも何となく、心が軽い。それは気のせいかもしれないけれども、でも、心がちょっぴり、いつもより軽い気がする。錯覚であったとしても、そう思える自分が在るということを、私は一人、口の中で転がして味わう。
 ベランダでは相変わらず風が唸り続けており、下手に窓を開けると、暴れ龍のような風が部屋に飛び込んで来る。私は後ろ手に窓を閉め、プランターを見て回る。
 アネモネは、もう終わりだ。ずいぶん長いこと私の目を心を楽しませてくれた。今プランターの中に残る三輪も、じきに花びらを散らすだろう。
 ミヤマホタルカヅラはこの強風にあっぷあっぷしている。こんなに強い風の中では息をすることもままならない。かわいそうにと撫でてみるけれど、花も葉もみな、必死に身を縮めている。この澄んだ藍色の花、いつ見てもほっとする。
 薔薇の樹たちを順々に見て回る。この強風であちこちが折れてしまっている。新しく葉を広げたはずなのに、その葉々は擦れ合って傷だらけになっている。うどんこ病にやられた病葉たちと健康な葉々とがみな、小さな悲鳴を上げながら風にぶるんぶるんとなぶられている。この風を止めてほしい。そう思って空を見上げると、あまりにも眩し過ぎる陽光に目を射られ、私は眩暈に襲われる。手すりに掴まりながら、心の中で呟く。風が止みますように、止まないまでもせめてもう少しやさしい風になってくれますように。もちろん風は私の言うことなんてこれっぽっちも聞いてくれない。ますます強く暴れながらベランダを走ってゆく。
 身体を強張らせて、小さく震えながら俯いて立っている私の肩を、ぽんっと叩いてくれる友達。そっと肩に手を乗せて黙って笑っていてくれる友達。そっと肩を抱いて凍える私の体を包んでくれる友達。大丈夫、そんな心配はいらないよ、と、そう言ってやわらかに笑ってくれる友達。
 そんな友達が在てくれるから、私は多分、踏ん張れるんだなと、つくづく思う。
 自暴自棄になりかける私に、真剣に怒りをぶつけてくれる友人。意識を失って自傷に及んだ私にすかんと抜けるような笑顔をくれる友人。問い詰められるんじゃないかと強張る私に、まるで何事もなかったかのような顔をして、いろんなものを飲み込んで手を握ってくれる友人。あぁ、どうしてこんなに、人はやさしいのだろう。
 人を傷つけるのは人だ。これでもかというほど、相手の人生を木っ端微塵に砕くことさえ厭わずやってのけるのが人間だ。でも同時に、人を癒すのもまた、人なんだ。人間なんだ、と。

 今夜、娘はじじばばとの旅行を終えて帰ってくる。帰って来たら一番に、ぎゅうっと彼女を抱きしめよう。そして彼女からいっぱい話を聴こう。そして彼女が眠ったら、私は彼女の枕元で、ママにもこんなことがあったよ、と、こんな嬉しいことがあったよと、今度は私が彼女に報告しよう、そして。
 人間という言葉は、ヒトのアイダと書くんだよ、ヒトのアイダにいてこそ人間なんだよと。眠る彼女に、そっと、話しかけよう。


遠藤みちる HOMEMAIL

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