2005年05月05日(木) |
今日は何をしたんだろう。何から今日が始まったのだろう。確か、娘も私も早く目を覚まし、その時に電話が鳴ったんだ。昨夜中、私が留守電にいれておいたメッセージを聞いた母が電話をくれた。あんな時間に電話をかけざるを得なかった事情を、もう一度話す。 そして娘に、新しいワンピースを着せて、それと似通った色のカーディガンを着せて、最後、三つ編みを結ってやった。さぁ出掛けようかと声をかけると、最近一番のお気に入りのぬいぐるみを抱いて、彼女は靴をはいた。 電車に乗って実家の最寄駅へ。みう、ママの分も舞台見てきてね。別れ際、ハグをして、そして手を振って。私はもと来た道を戻る。 明るい日差しが、眩暈を起こさせるほどに溢れている。街の何処かしこもが、陽光を受けて気持ち良さそうに佇んでいる。ふと見上げた街路樹の緑が、手の届きそうなところに一枚在るのを見つける。爪先立ちになって、そっと触れてみる。ひんやりした感触。その感触がそのままに、私の心に、滲んでゆく。 恐る恐る、先日行った病院に電話をかける。今日の担当医が先日とは別の人で、いらしてください、と電話の向こうで言ってくれる。 病院で治療を受けた後、「もし明日も近所の病院がまだ休みだったら、ここに消毒しに来て構いませんからね」と先生が言う。有り難くて頭を下げて診察室を出る。 帰り道、鞄の中にホルガをいれてきたことを思い出す。あぁ、昔は、パニックに陥ったりするたびに私はカメラを持って街を徘徊した、そのことを思い出す。爆発しそうな何かを抱え、私は必死に街を彷徨し、シャッターを切り続けたのだった。なんだか懐かしい。 毒は連鎖する。だから、断ち切らなくちゃいけない。傷が膿を四方八方に撒き散らす前に、断ち切らなくちゃいけない。私の中に溜まりに溜まった毒を、外に撒き散らすのではなくて、私の中で昇華するんだ。どんなに苦しくても、どんなにしんどくても。 そう、今はどんなにきつくても、これを越えればまた、新しい景色に出会えるはずだ。きっと。 だから私はこの坂をのぼる。のぼりきって、坂の向こうに広がっているだろうまだ知らない景色の存在を信じて、私は坂をのぼる。
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「 ものがたり 1 」
夜だというのに 日はかんかん照りだ。 海だというのに 地下鉄が走る。 線路もないのに 轢死者が立ちあがる。 血だらけの腕を突きだす。 傷がないのに 痛みがある。 その日、 遠くの森で 鯨が道に迷って死んでいた。 空っぽを、胃に いっぱい詰めて。 それらすべてを目撃したのは ただ盲(めくら)だけ。
長田弘詩集/角川春樹事務所 ハルキ文庫 |
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