見つめる日々

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2005年11月17日(木) 
 熱が徐々にだけれども下がり始める。襲い来る激痛も、少しずつ少しずつだけれども和らいでゆく。一方で、私の中に生じた不安という芽が、ぐいぐいと大きくなる。あちこちを転がされ、病名は何処までも分からず、可能性の話をされても、不安は増すばかり。じゃぁとようやく自分を納得させ腰を上げれば、今度は、入院はご遠慮願いますと言う。これまでの治療の過程で、私のパニックがどんな頻度でどんな具合かを見せ付けられた病院が、うちでは対処できかねますと頭を下げる。同時に、それでも体調に少しでも変化があったら、そのときは即入院してくださいと言う。まるで正反対の言葉が右手と左手にぶらりぶらり。私はその間で、どっちにもいけず途方に暮れる。PTSDという厄介な荷物に、ここでもまた嘲笑われたような空耳を覚え、思わず振り返る。そこに在るのは、病院の出入り口の自動ドア。人を飲み込み、人を吐き出し、私はそこから少し離れた場所で、どっちにも行けずに立ち尽くしている。
 病院から少し歩けばモミジフウが在る。それと反対側の通りには銀杏が並んでいる。でも、私の足はまだふらついて、まともに歩くことも叶わず、結局今日も樹のもとまで歩いてゆけない。だから会えない。走るタクシーの窓に寄りかかり、窓から見える小さな空を見上げる。あぁ今日の空はまた青いのだ、と、そのときようやく私は気づかされる。けど、空はあっという間に流れ去り、私は自分の部屋の玄関を開ける。そして布団に横になれば、上には天井、右には細棚。娘がお守りにと置いていってくれた小さなぬいぐるみを枕元に置いて、私は眠ることもできずぐったりと横になる。

 気づいたら私の中で不安は増大し、虚無は増大し、これでもかというほどそれらは膨れ上がり。私は呑み込まれてしまった。
 そしてテーブルの端にぽってりと血溜まり。はたと気づいてその血の滴る先を見、私はげんなりする。リストカットは止まった筈だったのに。その思いがずしりと背中に圧し掛かる。疲れた。血に濡れた左腕をぼんやり見やりながら思う。何処まで行けば終わりが見えるのだろう。何処まで行けば、スタートラインに立てるのだろう。
 それをきっかけに、私の衝動はまた暴力的に暴れ始める。私の意識を薙ぎ倒し、勝手に暴走し始める。そのたび私の腕に傷は増え、意識を取り戻した後で私を苛む。そして今、実家に預けている娘の顔をぼんやりと、私は思い浮かべる。大丈夫、何とかするよ、早く迎えにゆくよ、必死の思いで、小さい声で、何とか呼びかける。

 病院と家とを往復し、横になるばかりの毎日。でもきっとそれも、じきに終わる。終わる。自分にそう言い聞かせ、私は布団をぐいと引っ張り上げる。


遠藤みちる HOMEMAIL

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