嫌いな食べ物「キュウリ」
長く短い、春であったように思う。
あんなに素晴らしい女性を私はかつて、きっとこの目に見たことが無い。
顔や性格や、持っているものが最上というわけでは無かった。
だけれど私はきっと、彼女以上のものを他の誰かに見たことが無い。
思えば幸せな季節であったと思う。
終わりすら幸福であったことが、唯一の不幸だ。
愛していると私が言った。
好きで大事だと彼女が言った。
そして別れた。
何故に別れが来たのか、私は理解出来ずに居る。
理由は判っても判別し切れない。
求め合って口付けする、そんな別れ言葉であった。
何も無く此処に行き着く私の意味を感じない。
働き、笑い、他人と話す私の意味を感じない。
私の感情の行方を感じない。
切り替えられてしまう心が、何故一つなのか判らない。
出来るならどちらかを切り取ってしまいたい。
「おいで」ともう言えない。
何故私が此処で息をすることが出来ているのか、
何故私が此処で明日を待つベッドの近くで座っていられるのか、
何故私がちっぽけな作業をしていられるのか、
まるで自分が信じられない。
私が何者であるかいまいち判らない。
名は言えるし冷静にもなれる。
だが一体果たしてそれが、なんだ。
失ったばかりだ
さくま