こしおれ文々(吉田ぶんしょう)
◇洞ケ峠を決め込む(一覧へ)
◇とこしえ(前回へ)
◇倒れるなら前のめり(次回へ)
2004年08月15日(日) |
サイエンス・フィクション【春子(ハルコ)】 第7話 1年後 |
第7話 1年後
あのホテルに行ったときから 1年の月日が経った。
あの日以来、 私は【春子】をしていない。
住むところも変わり、 遊んでた友達とは連絡をとっていない。
本籍も名前も変わってはいないが、 気分的には全く別の人間として 生活している。
それが・・・、契約の内容だった。
1年前の、あの15分間。
中年の男性は、淡々と話し始めた。
私はこれまで何事もなく 政治家としてやってこれた。 もちろん、これからも この世界に携わって行くつもりだ。
ただし今までのように 危機的状況に対して 【現金】を積んで 解決するようなやり方は、 これから通用しない。
【現金】に変わるもの。 それが【情報】だよ。
それも量だけあって、 不確かなものはいらない。
寸分狂いのない 【正確な情報】が1つあればいい。
どんなに政治家生命を奪うような危機的状況に 陥ったとしても、 それを事前に知るか知らないで大きな差が出る。
なおかつ、それが 【事前に知っていた危機的状況】であるなら、 それはすでに【危機的状況】ではなくなっているんだよ。
そこで君の出番となる。
春子・・・と言ったか? 要するに、 不特定多数に対する【売り買い】をやめて 私の専属として、働いて欲しい。
そして君の見えた【私の運命】を その都度、伝えてくれればいい。
報酬の方は、 君が生活する上で、十分な額を支払おう。
私の目的は【正確な情報】を得ることであって、 性的なものではない。
とりあえず月に1〜2回、その行為をするだけで、 君は何不自由のない生活をすることが出来る。
決して悪い話ではないはずだ。
まあ、あくまで口約束であり、 正式に文面で契約するわけではないが、 故意に、違った情報を言った場合などは、 それなりに覚悟してくれないと困るよ。
私は【人殺しは嫌いだ】とは言ったが、 【人殺しをしない】とは言ってない。
【必要な状況】においてはやむを得ないからね。
私は、契約を交わした。
あの時、 私にこの契約をを断る権利があったかわからない。
でも今となっては、 この生活も悪くないと思っている。
占い感覚で【運命】を知りたいがために レイプされそうになるよりは、 月に1〜2回程度、 あの中年の男性を相手にしている方が、 よっぽど楽な生活だ。
この生活は、 これから先、どうなっていくのだろう。
好きな服が買えて、 美味しいものを食べて、 前のアパートとは、 比べものにならないくらい広い部屋に住んでいる。
生きるだけで精一杯だった前の生活とは、 全く別世界、別次元だ。
私のまわりだけ 時間が止まっているような、 空気の流れるスピードを遅く感じる。
着心地の悪い洋服着せられ、 好き勝手に連れ回されている犬の気持ちは、 多分、こんなものなのだろう。
そのうち、世話することも出来なくなって 捨てられることがわかっているだけでも、 犬よりマシな方か。
これも、私の【運命】の一つ。
この先、どれくらいこの生活が続くのか、 そしてその後にどんな【運命】が待っているのか、
静かにその時を待つしかない。
今さらどうあがいても、 【運命】は変えられないのだから。
|