こしおれ文々(吉田ぶんしょう)
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2004年08月16日(月) |
サイエンス・フィクション【春子(ハルコ)】 第8話 ゆとり |
第8話 ゆとり
月1〜2回の【仕事】は、 あの1年前のホテルで行われる。
【出勤】するときは 毎回、あの秘書と思われる男が迎えに来る。
車の中で彼と話すことはほとんどなかった。
彼から話しかけてくることはないし、 何か聞いても、 当たり障りのない答えしか返ってこないため、 私はいつの間にか 彼に話しかけることをあきらめていた。
初めて会ったときの、 【嫌いなタイプ】という予想は当たっていた。
中年の男性の政治家としての活躍は順調だった。
そもそも自分の政治家生命を縮めるような事を 自らするような人ではない。
お酒を飲む量も少なく、 愛人がいるわけでもない。
案の定、 私が見えた【運命】も、 差し障りのないものであり、 あと数年は、 政治家として順風満帆の日々を送れそうだった。
中年の男性の政治家としての日々が順調だったからこそ、 今の私の静かな生活が保障されているわけで、 その辺は感謝しなければいけない。
それでも・・・、
それでも、この暮らしに、 どこか空しさを感じるのはなんでだろう。
以前のような、 行き当たりばったりの生活に 戻りたいわけではない。
【刺激】のない生活と 今の生活に不満があるわけでもない。
じゃあ、 この【空しさ】は、 私のどの部分から生まれているのか。
中年の男性と契約し、 静かな生活になったからこそ、 今までの自分を振り返る【ゆとり】が出来た。
自分の体を犠牲にして生きてることを、 【春子】と言う言葉で曖昧にして、 自分自身、 勝手に肯定していただけではないのか。
【不特定多数の男性に売る】のと、 【中年の男性に売る】のと、 一体、どんな違いがあるというのか。
【春子】という言葉と、 【売春】という言葉に、 一体、どんな違いがあるというのか。
そこに【違い】なんてなかった。
私はこれからも、 この生活を続けるだろう。
ちっぽけなで、安っぽい自我に目覚めて、 今さら【春子】をやめるような、 私はそんな偉そうなことを言える立場の人間ではない。
中年の男性と契約し、 今の暮らしがあるだけでも、 私の【能力】に感謝しなきゃいけない。
それがきっと・・・
変えることのできない 私の【運命】なのだから・・・。
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