乗り物に弱い家人が珍しく、ドライブに行こうと言うんで。 小僧の必需品やらアレコレ身支度してて、ふと見ると顔が悲しい。
どうしたと聞くと、ヒトコト、太った。
お出かけと疎遠だった桜木家。 その責任の一端は、こっちにも有る。
そこで話をした。いろんな話。
借りてる駐車場まで歩きすがら。 こういう時もいちいち人目が気になる、と言うた家人に。
他人のための身体になってんナァと、思いを漏らす。
自分のために、生まれてきてヨ。 他人のために、どれだけのことした?
親を喜ばすために歌ってみせ。 たまに会う祖父母のために賢いフリした。
クラスメイトに嫌われまいと風邪ひきの頭を毎朝シャンプーしたか。
おかげで、ますます熱出して。 それでも努力に見合うもんを手にしてる自分と。 満足したか。
小僧は、ママのことをデブなんて言わねェよ。 むしろいつだって、ままだいすき、言う。
小僧が時折ふっくらした風に感じると、家人は小僧の頬を手で包み。 あらー。まんまるになって来たねえと笑う。 笑いながら言う。顔をしかめては、言わねェさ。
てめえの息子に、身体も自由にならねーほど太っちゃ欲しくねェのが親心。
けど。 他人の身体をデブだのガリだの揶揄する思いの方が、ずっと醜いとヨ。
わかってる心が、それでも余計な脂肪に悲しむキモチだ。
てめえがてめえに抱いてるイメージちゅうもん。
棒みてーな脚と、カリッとした鎖骨。 そういうもんに忠実であろうとする人は良い。
けど。
最初、てめえに不安があって。
そいつを名前も知らねー他人の「許可」みてェな曖昧なもんで埋めようっちゅう。
そういうのはやめてくれな。
その不安を考えようナ。先に。
亭主のための身体とも思わねェ。
そいつは自分のための身体。
ただわかってるのは。誰より何より愛されてる身体。
おかしなもん飲んだり。 おかしなもんつけたり。
ぎゅうぎゅう締め付けて苦しめたりしてくれるな。
なに。身体がちっと、ゆるんだくらい。 ココロが邪悪にゆるむのよりか、ずっと良い。
キレイでカッコ良くてスタイリッシュ。 そんな単語。
ゴミ捨て場の雑誌の束ン中にもようさん有るが。
そんだけ。
この亭主がヨメに求めるのはそんなこっちゃない。
案の定ノリモノ酔いして、チャイルドシートにもたれて寝込む顔。
ちっとくらい、まんまるになってもいいよ。
居て欲しいのは。
自分のために自分の中の「正」保つ、そういう心持つ大事な人。
と。ガラにも無ェこと書いてすまん。
さて皆さん良い盆休みを。 くれぐれも車の運転と、刃物の気配に御用心。ナ。
また会おう。
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