ふつうっぽい日記
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「下手くそに投げる」 何を投げるのか。 誰が投げるのか。
ダウン症のA君のエピソード。 紫色の直径2センチくらいの組紐をA君は首に巻いていた。
何をする気か?! 大人な私たちは思う。 「危ないなぁ…」
A君はそれでゆったりながらも不器用ながらも、手品(マジック)を披露した。A君は得意げである。 私の腕も協力して、披露成功。 A君はさらに得意げになった。
そして、A君は走った。 待って待って〜。 ん? ケラケラと笑い声は事務室から聞こえた。 事務室の職員の前で手品の披露である。 しかし、何をやろうとしているのか解説が必要である。 そこで、私が解説。 「手品です」 職員は素敵な反応をしてくださり、ますますA君はご機嫌。 自信をつけたA君はさらに走り移動する。
待って待って〜。 職員室だ。 管理職2名が在室。 A君の披露開始。 管理職は無反応。 というか、困惑気味。 「事務室でも披露して調子に乗ってます〜。一応手品のつもりです。ハイ。」
第一声はこうだった。 管理職A 「見事な組紐だ…」 管理職B 「水に濡れたら色が出そうだ…」
妥協的な拍手をする管理職ら。 もうちょっと乗ってくれ〜と言いたかった。 一応、A君は満足。 「練習!」と言ったと思ったら、2階の講堂付近に移動して、Tシャツを脱ぎ、タンクトップ姿でA君なりにトレーニング。
しかし、手品の練習ではなく…。 組紐は「鞭」に変化。 そして、私は犠牲になる。 「痛いからそれはダメです」 A君は拒絶されたと思い、「あっちへ行け!」と威嚇してくる。
ひとまず距離を置く。 どうにかして紐からA君と分離させたいと私は考えていた。 「鞭」として振り回されると私の他にも犠牲者が出る。
しばらくすると、「先生?」という声。 「来て来て」という。 そして素早く隠れる。 が、丸見えである。 A君は顔を手で覆っている。 私は、「A君どこかなぁ〜いないなぁ〜」と探すふり。 3,4分くらい。 そして、「見つけた!」と声をかけると、キャっキャと笑うA君。 そして、「来て来て」と階段へ。 二階から一階へ紐を落とすので一階に移動して紐をキャッチしろと指令である。 キャッチ成功。(分離のチャンス到来である)
A君は私がキャッチしたのを確認して拍手するが、二階へ投げ返せと要求。
そこでである。 私は紐を下手くそに投げた。 わざと落下させた。
そして、「A君、教室で待ってるからね」と言ってみた。 賭けである。 A君の怒りが高まる可能性は大である。
怒りの可能性としては「オレの紐を返せ!」と殴り蹴りかかる行動である。 思い通りにいかないときに暴力的に主張してくることがあるのだ。
ところが「ハーイ」と返事が来たのである。 分離大成功である。 嬉しい裏切りである。
私は紐を持って、A君の教室に向かう。 その途中で、別の教室から脱走してきたと思われるB君と遭遇。 その場所はA君の教室への通り道であるため、B君に声掛けを実施。 座り込んでB君と話しかけているところへ、A君が来た。 自然に紐をA君に渡して、A君も巻き込み、「B君が教室で勉強したくないって言ってるんだよ。困ったねぇ」と腕組みしてみせた。 A君は首を傾げながらB君を覗き込み、私と同じように腕組みをして困った顔をしたのだった。
ーーー
B君の言い分のエピソード。 「勉強が分からないから面白くない。だからめんどくさい。だからずっと遊びたい。学校でも家でも遊びたい。」
「教室で授業を受けたら勉強が分かるから楽しくなるよ」と言ってみた。
「楽しいわけがない」と言った。
「やってみたら楽しいかもしれないよ。問題が簡単で時間が余ったら、本読んでいいですか?って先生に聞いたらいいよって言うかもしれないよ」と言ってみた。
B君は昼休み、上級生から「悪いことするな!上級生にそんな口のききかたするな!」と囲まれ、厳しい先生から叱られたような表情になっていた。 上級生の注意は妥当だと思われ、上級生には「さすが先輩だね。ありがとう。」と声をかけておいた。
そうやって、子ども社会での上下関係から学び、成長することもあるのだろう。
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