あまつばめの雑記
こんばんは。いらっしゃいませ。

2001年12月10日(月) 小説(前編)

こんばんは。
今日と明日の日記は、ちと、小説なんぞを書くことにしました。
長いので前後編です。






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「・・・おい・・・・・・おい。聞いとるかい」
「・・・・・・ん?・・・あぁ、うん、聞いてるよ」

怒り交じりの声に気づき、生返事を返す。
こんなことをすれば、余計に怒りを買う。
まあ、聞いていなかったのは確かだ。相手が話しかけている以上、しっかり聞くのは義務だろう。

「ならいい。え〜っと、どこまで話したっけ。そうそう・・・」

もっとも、話しているのでなく、喋っているだけなら聞く義務はない。
人だろうと、ゾウの人形だろうと、水飲み鳥だろうと、適当に相槌を打ってくれれば、こいつは満足なのだ。

「お前のようなバカにもわかるように、紙に描いてやるんだったけな」

どこからとなく、サインペンとレポート用紙を取り出した。
自分の前に紙を横長に置き、真ん中より少し奥、そこになにか描きだす。
〇を描き、Yをくっつけて、ちょんと1本線を加える。

「これが人」

小学生でも、もう少しまとものな絵を描く。人というより何かの地図記号だ。
その『人』らしき足元に、扁平の大きな楕円をつくる。

「人がこっちのほうに進んでいる。こっちが前」

自分から見て右側に『前』と書き入れる。読めるぎりぎりの汚い字を。

「ところが、地面が後ろへ向かって進んでる」

楕円に『<<』を加え、『後』の文字をつける。雰囲気としてベルトコンベアか。
『後』が『俊』と間違えているが、問題はなかろう。

「人が必死に走っても、ちっとも前に進まない。
 すこし先に進めば、へとへとに疲れる。
 仕方なく休むと、ずるずる〜って戻される。
 また立ち上がって走り出す。
これを繰り返すの」

擬音が多いところが、こいつの幼稚さを物語っている。
ペン先で『人』の上を往復させる。
かすかな線が何往復もして、結果、紙を汚す。
汚れを気にせず、コンベアの『後』に大きな『U』を描きたす。

「最後に疲れ果てた『人』がこの『オケ』に落ちてゲームオーバーってわけ。
 これが大まかなルールなの。
 わかった?」

そのとき思ったのは、滑車を回すハムスターの姿だった。






「『前』に向かって真面目に走りつづければ、いつか終わる。そう信じる。
 けど、そこまで行った奴を知らない。まったく根拠のないものなんだ」

ペン先で何度も『前』を叩く。『人』から10センチほどしか離れていないが、こいつにとって遠い場所。

「ゲームオーバーにはなりたくない。負けることは惨めだ。負けるのは嫌。勝ち残りたい。勝ち残れるのが100万人に1人だとしても、とにかく何とかしようとする。
 でも、正攻法で生き残れるのは、運や実力やその他いろんなものがあふれている奴。言い換えれば天才だけなんだ。
 後はみんな敗者。ミジメったらしいね」

「しょせん、ゲームだろ?勝者と敗者がいてもいいじゃないか」

こいつの手が止まる。
ついに読めなくなった『前』。クシャクシャ塗りつぶし、ペンにキャップをかぶせた。


「だから、オレは違う考え方で生き残ってやろうと考えた」

にらみつけて宣言した。



「いいか、みんなそろって『前』に進んでる。
 『前』にしか行けないと勘違いしてる。
 進んで助かるのは、ほんの少し。
 だったらさぁ」

そう言って新たな『人』を書き入れた。それは、

「『後』に行ってやるんだよ」



「ゲームオーバーの条件は『オケ』に落ちたときだけ。
 落ちたくなくて必死に逃げるけど、逃げ切れる保証はない。
 なら、いっそ、元気なうちに向かっていって飛び越えてやる。
 遠ざかるのが難しいなら近づいていく。
 逆転の発想ってやつだ。どうだ、すごいだろ」

「うん、すごいね」

言葉どおりすごいと思った。
真面目に走りつづけることより、根拠ない勝負にかけられる単純さを。
誰もためしていないので、今のところ、成功率は0%。
こいつがその確率を、変える変えられないは、なんとなくわかる。

だめだろう。

そんな単純なミスがあったなら、ゲームが成り立たない。
それでも、「もしかしたら」という希望は捨ててはいけない。
ミスというものは本当に単純なものだから。


「おぉ、そろそろ時間だ」

こいつが立ち上がり、ドアに向けて歩いていく。

「成功を祈ってるよ」

心無い声をかけると、手を振って答えてくれた。


ゲームオーバー最短記録者が、今、ドアを閉めた。


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