あまつばめの雑記
こんばんは。いらっしゃいませ。

2001年12月11日(火) 小説(後編)

昨日の予告どおり、後編です。




^^^^^^^^^^^^^^^^^^^

―――100―――

もう少しではじまる。
俺は目を閉じ、作戦を頭の中で復唱する。
転進。駆足。跳躍。
3つの動作をするだけだ。

―――30―――

こんな単純なことが成功するのだろうか。
急に不安がよぎる。
頭を振り、不安をかき消す。
大丈夫だ。絶対に。
単純だからこそ、上手くいく。シンプル・イズ・ベスト。
自分に言い聞かす。
大丈夫大丈夫大丈夫大丈夫大丈夫・・・・・・

―――5―――
大きく息を吸い込む。
―――4―――
息を止め、神経を張る。
―――3―――
腰を落とし、走り出す準備をする。
―――2―――
いらない力を抜く。
―――1―――
必要な力を張りつめ、
―――0―――
転進。
これからの第1歩を力いっぱい、

踏みはずした。




「なんでだぁ〜」
意識を戻すなり、すぐに吠えた。
案の定、そこはいつものトコであり、
「やあ、早かったね」
いつものアイツがいた。

もう、ここは何度目だろう。それでも、最初のころはしっかりと数えた。5回まで覚えている。まあ、それ以上は数えるのも面倒だった。つまり、6回以上、たくさんなのだ。

ここは、ただのスペース。
一つのテーブルと、それを囲む4つのイス。出て行くためのドア。調度品はこれだけしか見当たらない。寂しい、閑散とした部屋。
そのくせ、必要なものは知らないうちに眼の前に出てくる。紙やペン。心地よい音楽や、香ばしいコーヒーも必要ならば眼の前に出てくるのだ。

「あまりに早いようだが、作戦は成功したのかい?」
「駄目だ。問答無用で失敗した」

ときどき、アイツも、オレが必要としたからいるような気がする。


アイツと話すのは、実は2回目だ。

それまでずっとそこにいた。それでいてはじめて気がついたのがこの前。
こんな部屋に自分以外の誰かがいたのに気が付かないはずはない。だから、いなかったのかもしれない。なのにパズルのピースがはまるように、自然にそこにいるのだ。

興味を持ち、話し掛けてみる。
しっかりと言葉が返ってくる。
あいつの口からは肯定ばかり出てきたが、時折みせる皮肉。ただ必要だから出てくるナニカと違って楽しかった。

だからだろう。
今まで考えるだけのバカげた作戦を話し、実行してみる気になったのは。


「俺が考えるに、作戦自体は問題なかった。
 成功することはほとんど決まっていた。
 ただ、最初の一歩が奈落の上という、計算外の問題が発生した。
 一番必要な運が足りなかったんだよ」

そうだろう。
今の今まで、スタートからガケっぷちだったことはなかった。
思えば、スタート地点はゴールから離れてたり、そこそこ中央だったりしたから、こんな作戦を立てたのだ。
決して言い訳じゃない。

「そうか・・・
 じゃあ、もう1回、同じことやるの?」

挑戦的に聞き返してきやがる。
ここで「そうだ」なんて言ったら、自尊心が傷つきそうだ。

「同じことはしない。
 今度は横に行ってみようと思うんだ」

とっさに適当なことを言ってしまった。

「ん〜、あのな、今までは前と後しか気になっていなかったけど、道の横に逃げられるかもしれない。
 映画とかで列車に追いかけられるシーンがあるけど、横へ逃げればあっさり逃げられるはすだ。
 これも同じもので、横には壁がなくて降りられるかもしれない。そうしたら、わざわざ動く床に戻されなくてもいいのさ」
とっさのいいわけだった。でも、それらしいことが言えた。

「ああ、そうか。
 それも盲点だよ」

アイツの賞賛を得ると、なぜか、すごいことに気づいた感じがする。
不思議だ。
上手く行きそうな気がする。

「そうさ。もし、壁があったとしても、それをぶち壊したり、乗り越えたりすれば大丈夫さ」

そう、これが正解のはずだ。
根拠ない自信が湧いてきた。

そのとき、ドアの向こうから、呼ばれた気がした。
合図だ。
また、ゲームがはじまるのだ。

「また時間だ。
 今度こそ、成功してくるぜ」

アイツと別れ、ドアをくぐった。
アイツの期待にこたえるために。




ノートパソコンを取り出し電源を入れる。
システムを起動させ、ファイルを取り出す。
手早くプログラムに入力。

<ステージ変更、LL―5からWS―9>

「ふう、これで大丈夫」
自分以外いないのに、つい、声を出してしまう。

まったくもってバカだ。
管理する相手の前で、こうも簡単に手の内をばらしてくれるのだから。
対抗手段をとれば、ものの見事に崩れ去る裏技。
もちろん、そんなに裏技はないだろう。
プロの管理者としてミスを犯さないようにしている。
基本的な論理のミスはなくしておいた。
しかし、プログラムに余裕を持たせるために隙間を作ってあるのも確かだ。

素人というものは論理に固まった発想をしない。下手な先入観がない。
そのため、論理の隙間を見つけるのがなぜか上手い。
反面、こうして話を聞いてやると、かけがえない情報だということも認識せず、簡単に漏らす。
だから、素人はプロに勝てない。

好奇心旺盛だから気づくかもしれない。
それはそれでいい。
楽しみだ。
抜け出す日と気がつく日。どっちが先に来るのだろう。
未来を思いながら時計を見る。
そろそろだな。
もうじき戻ってくる。賢く、愚かなゲームプレイヤーが。


^^^^^^^^^^^^^^^^^^^
なんとなく、説明的で蛇足な後編でした。
タイトルは「ゲーム」
もとネタは電話中に描いたイタズラ書きだった。
なぜか、急に書いてみたくなったのです。

それでは、おやすみなさいませ。


 < 過去  目次  未来 >


あまつばめ [MAIL]

My追加