昨日の予告どおり、後編です。
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―――100―――
もう少しではじまる。 俺は目を閉じ、作戦を頭の中で復唱する。 転進。駆足。跳躍。 3つの動作をするだけだ。
―――30―――
こんな単純なことが成功するのだろうか。 急に不安がよぎる。 頭を振り、不安をかき消す。 大丈夫だ。絶対に。 単純だからこそ、上手くいく。シンプル・イズ・ベスト。 自分に言い聞かす。 大丈夫大丈夫大丈夫大丈夫大丈夫・・・・・・
―――5――― 大きく息を吸い込む。 ―――4――― 息を止め、神経を張る。 ―――3――― 腰を落とし、走り出す準備をする。 ―――2――― いらない力を抜く。 ―――1――― 必要な力を張りつめ、 ―――0――― 転進。 これからの第1歩を力いっぱい、
踏みはずした。
「なんでだぁ〜」 意識を戻すなり、すぐに吠えた。 案の定、そこはいつものトコであり、 「やあ、早かったね」 いつものアイツがいた。
もう、ここは何度目だろう。それでも、最初のころはしっかりと数えた。5回まで覚えている。まあ、それ以上は数えるのも面倒だった。つまり、6回以上、たくさんなのだ。
ここは、ただのスペース。 一つのテーブルと、それを囲む4つのイス。出て行くためのドア。調度品はこれだけしか見当たらない。寂しい、閑散とした部屋。 そのくせ、必要なものは知らないうちに眼の前に出てくる。紙やペン。心地よい音楽や、香ばしいコーヒーも必要ならば眼の前に出てくるのだ。
「あまりに早いようだが、作戦は成功したのかい?」 「駄目だ。問答無用で失敗した」
ときどき、アイツも、オレが必要としたからいるような気がする。
アイツと話すのは、実は2回目だ。
それまでずっとそこにいた。それでいてはじめて気がついたのがこの前。 こんな部屋に自分以外の誰かがいたのに気が付かないはずはない。だから、いなかったのかもしれない。なのにパズルのピースがはまるように、自然にそこにいるのだ。
興味を持ち、話し掛けてみる。 しっかりと言葉が返ってくる。 あいつの口からは肯定ばかり出てきたが、時折みせる皮肉。ただ必要だから出てくるナニカと違って楽しかった。
だからだろう。 今まで考えるだけのバカげた作戦を話し、実行してみる気になったのは。
「俺が考えるに、作戦自体は問題なかった。 成功することはほとんど決まっていた。 ただ、最初の一歩が奈落の上という、計算外の問題が発生した。 一番必要な運が足りなかったんだよ」
そうだろう。 今の今まで、スタートからガケっぷちだったことはなかった。 思えば、スタート地点はゴールから離れてたり、そこそこ中央だったりしたから、こんな作戦を立てたのだ。 決して言い訳じゃない。
「そうか・・・ じゃあ、もう1回、同じことやるの?」
挑戦的に聞き返してきやがる。 ここで「そうだ」なんて言ったら、自尊心が傷つきそうだ。
「同じことはしない。 今度は横に行ってみようと思うんだ」
とっさに適当なことを言ってしまった。
「ん〜、あのな、今までは前と後しか気になっていなかったけど、道の横に逃げられるかもしれない。 映画とかで列車に追いかけられるシーンがあるけど、横へ逃げればあっさり逃げられるはすだ。 これも同じもので、横には壁がなくて降りられるかもしれない。そうしたら、わざわざ動く床に戻されなくてもいいのさ」 とっさのいいわけだった。でも、それらしいことが言えた。
「ああ、そうか。 それも盲点だよ」
アイツの賞賛を得ると、なぜか、すごいことに気づいた感じがする。 不思議だ。 上手く行きそうな気がする。
「そうさ。もし、壁があったとしても、それをぶち壊したり、乗り越えたりすれば大丈夫さ」
そう、これが正解のはずだ。 根拠ない自信が湧いてきた。
そのとき、ドアの向こうから、呼ばれた気がした。 合図だ。 また、ゲームがはじまるのだ。
「また時間だ。 今度こそ、成功してくるぜ」
アイツと別れ、ドアをくぐった。 アイツの期待にこたえるために。
ノートパソコンを取り出し電源を入れる。 システムを起動させ、ファイルを取り出す。 手早くプログラムに入力。
<ステージ変更、LL―5からWS―9>
「ふう、これで大丈夫」 自分以外いないのに、つい、声を出してしまう。
まったくもってバカだ。 管理する相手の前で、こうも簡単に手の内をばらしてくれるのだから。 対抗手段をとれば、ものの見事に崩れ去る裏技。 もちろん、そんなに裏技はないだろう。 プロの管理者としてミスを犯さないようにしている。 基本的な論理のミスはなくしておいた。 しかし、プログラムに余裕を持たせるために隙間を作ってあるのも確かだ。
素人というものは論理に固まった発想をしない。下手な先入観がない。 そのため、論理の隙間を見つけるのがなぜか上手い。 反面、こうして話を聞いてやると、かけがえない情報だということも認識せず、簡単に漏らす。 だから、素人はプロに勝てない。
好奇心旺盛だから気づくかもしれない。 それはそれでいい。 楽しみだ。 抜け出す日と気がつく日。どっちが先に来るのだろう。 未来を思いながら時計を見る。 そろそろだな。 もうじき戻ってくる。賢く、愚かなゲームプレイヤーが。
^^^^^^^^^^^^^^^^^^^ なんとなく、説明的で蛇足な後編でした。 タイトルは「ゲーム」 もとネタは電話中に描いたイタズラ書きだった。 なぜか、急に書いてみたくなったのです。
それでは、おやすみなさいませ。
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