水野の図書室
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2001年12月04日(火) 鈴木光司著『無明』

一週間にわたって鈴木光司さんの短編集『生と死の幻想』を読んできましたが
今日はいよいよ最後の物語『無明』です。
無明とは、仏教用語で、煩悩にとらわれ真実について無知であること。
最も根本的な煩悩のひとつです。昨日の『抱擁』からくるりと変わって『無明』。

短編集に収められる小説の順番は、CDアルバムの楽曲順を思わせます。
激しい曲の後にスローバラードがきて、その後はメロディラインがはっきり
している曲がと、飽きさせません。

さて、物語ですが、男は車に妻と二人の娘を乗せ、山道を走って知り合いの
ログ・キャビンを目指していました。
車を運転しながら、かつて山の霊気を感じたときのことを思い出します。
吉野から熊野へ至る大峰山の中腹にバイクを走らせたときのこと。
奥吉野の天川村にバイクで行ったときのこと。釈迦ヶ岳から弥山の
山頂に向かったとき、両足とも義足の行者といっしょになったこと・・

そして、奥駆け修行の修験者たちが唱えた般若心経へと思いを広げます。
「行け、行け、彼の岸にともに渡らん 悟りに幸いあれ」
・・これが、多くの宗教家が捉えている般若心経の締め括りの部分の解釈とは!
初めて知りました。
彼は般若心経を「いかに人生が残酷であろうとも、この世は美しく、生きている
以上は清濁併せ呑むほかない」と考えます。

般若心経を考えながら運転していたからではないでしょうが、道に迷った末に
車は袋小路に・・
そこでとんでもないものを目撃するのですが・・

この目撃を書くために『無明』はあるようです。
いいえ、『無明』のラスト3ページのための短編集『生と死の幻想』です。

家族を守るために、毅然と立ち向かう父親、カッコいいですーーー!!!

鈴木光司著『生と死の幻想』(幻冬舎文庫)収録の『無明』は37ページ。
般若心経にほんの少しだけさらりとふれた10分。
愛する者を守るためには、強くなくてはいけない・・

あとがきで、著者は「どんなに悪行がはびころうとも、死が間近に迫ろうとも
世界は生きるに値するし、常にその覚悟を持っていたいと思う・・」と。
六編の主人公が、妻子を持つ平凡な一市民であることに大きな意味が
あるように思います。
家族を守るために、『無明』の父親が最後に言った言葉がこの短編集の
焦点を表しています。
なんと、父親は言ったのか・・・本を読んでみてください。

明日は、外国の作家を・・お楽しみに!














水野はるか |MAIL
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