水野の図書室
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2001年12月21日(金) 乃南アサ著『水虎』

乃南アサさんの小説を読んでいると、登場人物の表情やしぐさが見えるようです。
心理描写が克明で、作品全体が緻密だからだと思います。
今日読んだ物語では、靖孝と圭介の二人の話し合う声までもが、行間から洩れて
くるようでした。短編集『悪魔の羽根』の第四話『水虎』(すいこ)です。

靖孝は、水泳教室でコーチをしています。実際は、スキューバ・ダイビングの
インストラクターが本業なのですが、外国の海で潜るための資金を得るため
水泳教室での仕事も大切にしています。

ある日、同じ高校を卒業した圭介が、靖孝にダイビングを教えてほしいとやって
来ます。俳優を目指している圭介が受けるオーディションの条件に、ダイビング
があったのです。靖孝は圭介のためにできる限りのことを教え、わずか二週間で
自由に泳げ潜れるようにしてやったのですが、圭介は役に不満を持ち、自分から
オーディションを蹴ってしまうのです。靖孝は傲慢な圭介を懲らしめようと、
夏の終りの海に誘い・・・

タイトルの水虎とは、靖孝が祖母から聞いた話にでてくる魔物のことです。
お盆が過ぎたら海に入ってはいけない。水虎が人を海に引き込む、人の舌を食って
しまう、と幼い頃に聞かされていたのです。

この水虎の話がまったくの迷信でなかったことを思い知らされる靖孝と圭介。
二人の心のゆれが細やかに描かれています。
うーん、海を甘く見てはいけません。人の気持ちをもて遊んではいけないです〜

ところで、水虎のような迷信には祖先の知恵がしのばれます。
土用波が立つ頃の突然荒れ始める海で、水難事故を防ぐため、海を畏れさせる
ために生活から生み出した伝説の魔物なのでしょう。

乃南アサ著『悪魔の羽根』(幻冬舎文庫)に収録の『水虎』は38ページ。
人の心の危ういゆれにドキドキした15分。
迷信だからといって、笑ってすまされないこともあるんですよね。

とても神妙な気持ちで読み終えました。








   


水野はるか |MAIL
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