水野の図書室
Diary目次過去を読む未来を読む
皆さま体調に気を付けて今日も良い一日でありますように。


2001年12月24日(月) 乃南アサ著『指定席』

クリスマス・イブにご用意したのは、『指定席』です。
乃南アサさんの短編集『悪魔の羽根』の最後の物語。
この作品だけが、季節をモチーフにはしていないようです。

とりたてて特徴のない津村弘。いつでも物静かで、淡々と仕事をする彼は、端然
と「そこ」にいるような人です。

いますいます〜。こういう人。友人に話すときに、どんな人?って聞かれるのが
一番困るタイプですね〜・・「フツーの人」としか言えなくて。

津村の唯一の楽しみは、仕事帰りに、いつものコーヒー店に寄って、いつもの
席で、いつものコーヒーを飲むことなんです。その席は、カウンターの一番右端。
津村が密かに気に入っているウェイトレスは、毎日同じような時刻に現れる津村
に、「指定席」のようにこの席を確保してくれています。

ある日、津村がその店に行くと、いつものウェイトレスの姿がなく、新しい
ウェイトレスが。津村は、このウェイトレスに反感を持つばかりでなく、自分の
指定席に他人が座っていることに我慢できずに・・・

ラストで、ゾゾッときました。怖いです。
もう一度読んだら、ゾゾッは増幅してゾゾゾゾッに・・
世間では、事件の犯人が捕まった時に、その知り合いが「ごくフツーの人です。
目立たない人でした・・」などど容疑者について話すことがあります。
そんなことを思い出しました。

狂気とは、誰もが無縁のようでいて、実は、誰もの心の奥底で息をひそめている
のかもしれません。

乃南アサ著『悪魔の羽根』(幻冬舎文庫)収録の『指定席』は28ページ。
身近にいる目立たない人を考えた12分。

あとから、じわじわ怖くなりました。








水野はるか |MAIL
Myエンピツ追加

My追加