水野の図書室
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2002年01月06日(日) |
鷺沢萠著『ほんとうの夏』 |
昨日の『君はこの国を好きか』に続いて、在日韓国人三世が主人公です。 『ほんとうの夏』の主人公は新井俊之、大学生。『君はこの国を好きか』のアミ と違うのは、自分が韓国人であることをまわりの友人や恋人に言えないでいると いうことです。
日本で生まれ育ち、韓国語を話せず、ハングル文字を読めず、朴俊成という本名 ですら韓国語で何と読むのか知らない俊之は、韓国人であることを隠してきたわけ ではありません。新井俊之でずっときてしまって、いきなり、自分の国籍をまわり の人に言うのも・・躊躇しているだけなのです。
うーん、・・・名前は国籍を知るひとつの手がかりですから、・・。
恋人、芳佳(よしか)を車で女子大へ送る途中、軽い追突事故を起こした俊之は 芳佳を車から降ろして、早く行けと追い立ててしまうんです。
せつないです。芳佳は事情がわからず、泣きながら駆けて行くあたり。 警官が来る前に、芳佳に立ち去ってほしかったのは・・・
俊之にとって、芳佳は大切な人だというのが、ひしひしと伝わります。 俊之の韓国人の友人、スンジャは、自分が韓国人だと言った途端、彼氏は黙って 帰ってしまうし・・ふだん、この人は日本人、あの人は韓国人、なんて、考えて つきあっているわけではないけれど、目の前で、実は国籍は・・とか言われたら 驚くのかな・・。
俊之は、数少ない韓国人の友人との話の中で自己認識を強めていきます。 在日韓国人であることの気遣いにも触れていて、テーマは重いのですが、颯爽と しているのは、鷺沢さんの文体にあるのではないでしょうか。
鷺沢萠著『ほんとうの夏』は、『君はこの国を好きか』(新潮文庫)に収録。 101ページ。青春の二文字が舞い降りたような27分。 青春・・ほろ苦く甘い響きです。
ところで、あとがきを読んで、びっくり! タイトル『ほんとうの夏』は、当初、『もっと、もっと』だったそうです!! 諸般の事情で変更されたのだとか・・ やっぱりね。
鷺沢萠さんは1968年生まれ。'87年、18歳の時に『川べりの道』で文学界 新人賞を受賞、デビュー。'92年に『駆ける少年』で泉鏡花賞を受賞。 今日読んだ『ほんとうの夏』は、三島賞候補作品でした。
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