水野の図書室
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皆さま体調に気を付けて今日も良い一日でありますように。
| 2002年12月01日(日) |
伊集院静『蛍ぶくろ』 |
先週から「短編復活」(集英社文庫)を読んでおります。 今日は四番目のお話、『蛍ぶくろ』。蛍ぶくろは、つりがね草とも言い、下を 向いて咲く小指の大きさほどの可憐な花です。昔の子どもたちは捕まえた蛍を この花の中に入れて、その光を楽しんだのだとか・・ロマンチックですね。
タイトルが奥ゆかしいので、どんな女性が登場するのかと思ったら、な、なんと ホームレスの老婆でした。帰る家がない女の思い出の中で、最もいとおしい記 憶のひとつになっているのは、蛍ぶくろを見つけた幼い頃のこと──なんだか、 せつないです。蛍ぶくろの中で甘い香りに包まれて眠る蛍のように、誰かに包ま れる夢を見る女の想いは、ホームレスという境遇ゆえ、より哀れで・・。
この老婆が、自分に近づく靴音だけで、どんな人間なのか推理するところは鋭い なぁと感心しました。これは、伊集院静の鋭さでしょう。 最後のページは、柔らかな花びらそのもののようです。
蛍ぶくろ、見たことありますか?
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