水野の図書室
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皆さま体調に気を付けて今日も良い一日でありますように。
| 2003年05月11日(日) |
恩田陸『ニューメキシコの月』 |
昨日の『海にゐるのは人魚ではない』では、中原中也の詩から作者が紡ぎ出した 世界に浸りましたが、今日は、アンセル・アダムスの写真 >ニューメキシコの月 から始まるお話です。 写真って、どんどんイメージを広げますね。この「ニューメキシコの月」を見た時、 思わず胸がドクンとしました。幻想的で神々しくて、大勢でわいわい見るんじゃなくて ひとり静かに向き合いたい、そんな写真です。 もし、この写真の絵葉書が届いたら・・うーん、どうですか?どんなメッセージがある と思います?
恩田陸「象と耳鳴り」(祥伝社文庫)の第六話で、関根はちょっとしたケガで入院する ことに。お見舞いに訪れた友人の検事が持ってきたのが、「ニューメキシコの月」の 絵葉書というわけで、それは死刑の執行を待つ犯罪者から検事に毎年送られてくる ものだったのです。死刑囚は元医者で、評判は良く、海外の紛争地域にもすすんで 行っていて、人望がありながら、九人の人を殺し自宅のまわりに埋めていた── 快楽殺人を告白した医者に弁護の余地はなく、裁判は異例の速さで結審。 しかし、真相は……。
短い割りに(短編集です)、すっごい読み応えがあります。 殺人に同情の余地はないと確認しながら読み進みうち、なんとも言えない哀しさが 行間から立ち昇り、せつなくはがゆいやりきれなさを、どんどん拾っていきました。
月の写真はいろいろ見たことがありますが、この写真は特別です。 読後感の重さにも特別なものがあります。
ANSEL ADAMS http://masters-of-photography.com/A/adams/adams.html
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