日記帳

2007年03月05日(月) 黒い石けんを売るママ

風が強くて目が開けられないわ、という振りをして、彼女と目を合わさずに済んだことに感謝した。

ママ友(このカテゴライズもいかがなものかと思うが便利なので使う)で、化粧品の販売をしている人がいる。サトウさん(仮名)という。

1年前、年少のときに「始めたんだって」と人づてに聞いたり、たまにぴしっとしたパンツスーツを着て大きい角ばった黒のバニティポーチを持って、遅めの時間に慌ててお迎えに来たりする彼女を見て、「ああお仕事だったんだな」くらいに合点していた。

今までカーサンにその化粧品の話をしてくることはなかったのだが、最近とあるきっかけで、その化粧品のサンプルを手渡された。よかったら使ってみて、てサトウさんは言った。

サンプルをもらって、初めてその化粧品会社の名前を知った。聞いたことがある、という程度。

翌日からサトウさんはすすすとカーサンに近づいてくるようになった。園庭はサバンナか。カーサン気分は草食動物だ。

どうだった?使ってみた?なんかさばちゃん色が白くなったみたい。すごくいいのよ。今度石けんを泡立てるところとか見せたいし、いろいろ説明したいから、うちに来て。コイケさん(仮名)も来るから。明日何か用事ある?

コイケさんはカーサン以上に化粧品に無頓着そうな(失敬)物言いのはっきりしたママ。彼女となら大丈夫かな。きっぱり断ることも出来ず、翌日サトウさんちに行った。

意外なことに、コイケさんはその化粧品ユーザーになって半年経っていた。げげげ。当てが外れた。まずい。

もともとサトウさんはトーキンママなのだ。立ち話1時間はざら。園庭で話し続けるママを待ちきれず、サトウさんの息子が彼の友達と信号を渡ったところのコンビニに行ってしまったことがあるくらい。

その滑らかな彼女の舌が、延々化粧品の素晴らしさについて語る。紙芝居のようなフリップをめくりながら、3秒で読み切れてしまう少ない文字たちを指差して、5分かけて語る。

ああ、こういう商売なのか。カーサンはうんざり。あからさまに顔に出てしまわないように、ときどき相槌を打ったりしてしまう自分にもうんざり。

やってみる?顔洗ってみる?と勧められて必死で断る。あああああたしね、もともとアトピーなんだ。今花粉症の時期ですごく過敏になってるし。

そしたらコイケさんが「じゃああたしが」と代わってくれた。ほっ。

翌日もその翌日も、サトウさんのセールストークに悩まされることになった。そのたびに煙幕を張るカーサン。煙幕もくもくで、もうカーサンの姿は見えなくなってしまえばいいのに。

サトウさんはカーサンの煙幕なんてものともしない。「ちょっとかゆいみたい」と言えば「肌が活性化してるのよ」、「肌がつっぱるなあ」と言えば「使い始めて4日間はそうなの、大丈夫、続けてみて」そんな調子。

化粧品自体の機能は悪くないのだ。使ってみてもいいなとすら思えるのに、今日も煙幕を張らずにいられない。

サトウさんの目に、盲目的な光が宿るのを見るのが怖いのだ。石けんを洗面器にためた水に浸して「ね?キラキラしてるでしょ?これがミネラルなの」と石けんを見つめるあの目。あの光に、いつか違和感を感じることがなくなるくらい、カーサンもビバ石けんと思えるようになる?

そんなことを考えながら買った化粧品で、カーサンきれいになれる?それでもきれいになりたいと思ってしまうカーサンがいるのは確かだ。うげげげー。化粧品の力って怖い。


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