日々雑感
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2001年12月14日(金) 星野道夫さんのこと

下高井戸で「地球交響曲・第三番」を観る。今回登場するのは、宇宙物理学者フリーマン・ダイソン、外洋カヌー航海者ナイノア・トンプソン、アラスカで動物の写真をとり続けた星野道夫の三人(撮影の直前に星野道夫がカムチャッカでヒグマに襲われて亡くなったため、友人たちが彼について語るという構成になっている)。

星野と共に数え切れないほどのフライトをしたブッシュ・パイロットのドン・ロス、友人であるビル・フラー、元ブッシュ・パイロットのジニー・ウッドにシリア・ハンター、アラスカ先住民族クリンギット族の語り部ボブ・サム、そして妻の直子さんに息子・翔馬くん。星野道夫が自らの著書で繰り返し語ってきた人々が画面に現れる。星野道夫の写真や書くものが好きだ。何度も本を読んできたので、自分自身も古くから知っている友人に会ったような気にさせられる。

この映画では皆が自分の中の「ミチオ」について語るけれども、そのまなざしは星野道夫自身のものでもあると感じる。何か同じものを共有し、見つめてきた(そして今も見つめている)まなざし。ヒグマに襲われて亡くなるという事故はショッキングだったけれど、アラスカの友人たちは、その死を深く悲しみつつも、皆どこかで納得している。ミチオを知る誰もが口をそろえる。「ある意味では、彼はこの道を自分で選んだのかもしれません」

星野道夫の本の中に好きな一節がある。

「何も生み出すことのない、ただ流れてゆく時を、大切にしたい。あわただしい、人間の営みと平行して、もうひとつの時間が流れていることを、いつも心のどこかで感じていたい。」(『旅をする木』)

彼も、彼のアラスカの友人たちも、この「もうひとつの時間」を確かに感じていたのだと思う。そして、その流れの中では星野道夫の死がどのような意味を持つのかも。彼が残してくれた本を、一冊ずつ大事に読んでいきたい。

帰りは世田谷線を使う。ゆっくり走るので、道行く人や窓に干された洗濯物などよく見える。向こうからもこっちの表情などはっきり見えてるんだろう。路面電車のある町は、人が置き去りにされていない感じがして落ち着く。図書館に寄って『小山清全集』(筑摩書房)を借りて帰宅。


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