日々雑感
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夢を見る。
草むらを歩いていた。昼下がり。丈の高い草が茫々と広がり、その中に細い道がある。道の真ん中には大きな水たまり。ゆっくりと流れていく雲が映っている。しばらくすると、草むらの中に廃屋が見えてくる。大きな洋館だ。窓ガラスは割れ、もうすぐ草の中に埋もれようとしている。壁の隙間に小さな花が咲いている。
人の気配はない。それでも、屋根にはまだ色が残っている。あせた青い色。
不意に、遠くからかすかに音楽が聞こえてくる。古いラジオを通したような音だ。この歌は何だろう。どこかで聞いたことのある曲。けれど、どうしても曲名が思いだせない。私は確かにこの曲を知っているのに、ひどくもどかしい。ドアが風でギイギイと鳴っている。音楽はだんだんと大きくなってゆく。はっとする。これは、カーペンターズの「top of the world」だ。
気づいた瞬間、あたりは夜になる。暗がりの中で、さっきまで廃屋だったはずの家に灯りがともっている。人の気配。夕食中なのか、食器の音や話し声が聞こえてくる。そしてやはり、今度ははっきりと、カーペンターズの曲。この家の中から聞こえていたのだ。ドアが開く。「おかえり、おそかったね。」
そのとき、私はありありと思い出す。ああ、ここはかつて、自分の家だったのだ。
だとすればあの朽ちた家は。いちめんの草むらは。すべてが草むらに埋もれそうになっていたではないか。カレンの歌声がわんわんと鳴り響く。
目が覚めてからも、しばらくカレンの歌声が耳から離れなかった。そして、暗がりの中に浮かび上がった家の灯り。「ここはかつて自分の家だった。」と気づいたとき、ぞっとした。同時に泣きたくなった。悲しかったわけでなく、何か途方もないものの前に立ち尽くしたような気分で。
過去だとか未来だとか、夢だとか現実だとか、いくつもの世界が同時に存在している。けれど、同時に存在しながら、それらの世界と実際に交わることはできないのだ。きっと私は、あの家の中には入れなかっただろう(そして、音楽だけはいろんな境界を越えていくのだろうか)。
しかし何でこんな夢を見たのだろう。実生活でカーペンターズに特に思い入れがあるわけではない。あの家で自分を迎えてくれたのも、誰か知らない人だった。ひょっとしたら、前日、ドラマとマンガの「漂流教室」を見たせいかもしれない。
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