日々雑感
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2002年02月06日(水) 何でもないことも大事に見る

図書館からの帰り道。今日はわき道にそれてみる。

建設中の家の横を通る。のこぎりの音。新しい材木の匂い。家を建てている様子はなぜだか春の光景という気がする。もう思い出せないほど奥深く沈んでいる自分の記憶の中で、家を建てることと春とが結びついているのだろうか。陽射しがあたたかい。

そのまま歩いてゆくと、蔦がからまって朽ちかけた家が何軒もある。壊れた木の柵を補強したらしいスキー板がそのまま残って、家といっしょに朽ちようとしている。かつてそこに人がいた名残りだ。新しく建てられる家と朽ちかけた家。

緑道を抜けると家が立ち並ぶ街の中に入っていく。玄関前でおばあさんが白いムクムクした犬にブラシをかけている。犬は陽にあたって、目を細めてじっとしている。耳のところに水色のリボン。

いつの間にか黄色い壁の創作にんにく料理屋もできている。なかなかよい雰囲気。梅の木のある古い家から三味線の音が聞こえる。見ると木製の看板があって「長唄教室」らしい(こんなところにあったとは知らなかった)。ぼんやりと暖かな午後の町に三味線の音が響いている。梅の匂い。

家に戻る前に喫茶店に寄り、図書館から借りた本などつまみ読み。『福寿草』小沼丹(みすず書房)の中の庄野潤三について書いた部分に目がとまる。

「庄野は詩人である。この詩人と云ふ意味は、詩を書くから詩人だと云ふことではない。(中略)詩を書かない詩人も澤山ゐる。庄野が詩人だと云ふのは、詩心を持つてゐると云ふことである。」

「庄野は生活を大切にして、何でもないことも大事に見る、だからをかしみを見出す、と最初に云つたが、それは詩心があるからと云ふことに他ならない。」

何でもないことも大事に見る。簡単そうで難しいことだと思う。いろんなものを見過ごしてはいないか。眼差しが大ざっぱになってはいないか。

帰り、ケーキ屋の前を通る。苺ののったショートケーキがおいしそうで、心惹かれる。こういうところだけはちゃんと見えるのだ。買って帰ろうかと思ったが我慢する。



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