日々雑感
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2002年02月16日(土) 餃子彷徨

図書館に本を返しに行く。いつもの道を歩いていく。

「ぎょーざー」というスピーカー越しの声が聞こえてくる。角を曲がると「餃子」と書かれた赤い提灯をぶらさげたワゴン車が停まっている。餃子の移動販売車らしい(はじめて見た)。「カレー餃子、ごぼう餃子など、車内で焼いて販売しております。」おじさんとおばさんが、座席で暇そうにしている。そのうち、車を動かしてゆっくりと移動していった。

本を返却。いい天気なので遠回りして帰ることにする。知らない道を選んで進む。

坂道をゆっくりと下ってゆくと中学校らしい建物がある。サッカーボールを蹴りあう音。吹奏楽部なのか、サックスの音も聞こえる。記憶の連鎖。いつかの放課後を思い出す。

細い路地の奥に古い家があって、少し開いた戸の隙間から薄暗い勝手口がのぞいている。ひんやりとした空気。白梅が咲いている。どんどん進む。見たことのないお店が並んでいる。ゴルフ用品店、チーズケーキ屋、お茶の販売所。少し古びた店頭。ゆっくりと走ってきたバスとすれ違う。黒猫が一匹駆けてゆく。

初めて通る道なのに、なぜだかなつかしい。どこかに似ているというよりも、もっと漠然とした感覚だ。いったい私はどこを歩いているのだろう。これは「今」なのか、「いつか」なのか。過去も現在も未来も溶けた、ぼんやりとした空間をふらふら歩いているような気分になる。「いつか」の「どこか」へつながっている道。

やがて、小高い丘の上の木々の合間から大きな神社が見えてくる。その下には、ずっと向こうまで桜並木がつづいている。道幅いっぱいに広がった黒い枝。桜の咲く頃には、きっとすごい眺めになるだろう。春になったら見に来ようと決める。けれどそのとき、私はちゃんとここにたどり着けるのだろうか。

角をいくつも曲がる。だんだん日が暮れてくる。少しだけ不安になってきたとき、一軒のコンビニが見えた。図書館から少し離れた所にある、よく知っているコンビニ。途端に風景が馴染みのあるものに一変する。ぐるりと周って出発点に近い場所に戻ってきたのだ。ふと目をやると、何とあの餃子移動販売車が停まっていて、お客さんが何人も集まっている。できすぎている。まるで異界訪問譚の最後の場面みたいだ。

夕方の商店街は人出が多い。ちょうど切れていたシャンプーを買って帰る。


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