どこかへ出かけたあとは、しばらく熱に浮かされたように、その場所のことばかり考えてしまうけれども、今回は特に重症らしい。喧騒も、緊張感も、無法地帯の大通りも、夜のスタジアムで身体の芯まで冷え切ったことも、何もかもみな懐かしい。毎晩通ったチーズ屋のおじさんは、今日もあのお店で常連のお客を相手にしているのだろうか。大きな円を閉じるかのように、夜行で発ち、同じ街からまた夜行で帰ってきた。旅のはじめと終わりとで、不思議と、対照をなす出来事が次々と起こった。行きて還りし、けれども、それはほんとうに「円環」なのか。数週間ぶりに立つ駅のホームは、まだ寒かった。家への帰り道、花屋の店先にはネコヤナギが並んでいた。