diary/column “mayuge の視点
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春来れど心躍らず

 突然、春が来た。

 街の色が変わった。冬の景色にかかっていた緊張感ともいうべきフィルターが、一枚剥がされたようだ。自転車を漕いで駅に向かう僕の首には、もうマフラーはない。青信号を待っていると、首筋が汗ばむ。そういえば、日本は多湿の国だったな。生暖かい風の感触なんて、すっかり忘れていた。

 髪をかき乱す風に悩まされた日曜は、あっけなく夜になった。時が過ぎるスピードは、冬と変わらない。春というものになんとなくかけはじめていた期待が、裏切られたような気分になる。春だからといって、トクがあるわけではないのだ。

 日曜の午後八時。京王線新宿駅三番ホームには、明日に縛られた顔が並ぶ。そのなかに混じって急行列車のシートに納まる。僕はなぜだか居たたまれなくなって、本に逃げ込む。

 なんの前触れもなく、隣に座っている男が笑った。二、三度、鼻を鳴らして。思い出し笑いというやつだろう。

 なにが楽しいというのだ。

 春だから、か。

2004年02月22日(日)

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