『ローマ人の物語�検.罐螢Ε后Ε�エサル』 塩野七生著(新潮社刊)
その時、僕は迷っていた。
目の前にある安全な道をそのまま進むべきか、リスクを冒して「川」を渡り、夢に向かって荒地へ踏み出すべきか――。
「ルビコン川の岸に立ったカエサルは、それをすぐには渡ろうとしなかった。しばらくの間、無言で川岸に立ちつくしていた」
かのカエサルも迷ったという。あれだけの偉業を成し遂げた「決断と実行の男」がだ。少しだけ安心した。だったらちっぽけな僕が悩むのも当然のことじゃないか。
カエサルを動かしたのは、「パクス・ロマーナ」という壮大な夢だった。男は、この夢ってやつに弱い。僕の中にもその時、生まれて初めて夢というものが頭をもたげはじめていた。
カエサルは川岸で、迷いを振り切るかのように大声で叫ぶ。
「賽は投げられた!」
本を持つ手が震えるようなシーン。馬を駆ってルビコンに突入していくカエサルの後姿が、僕の脳裏にありありと浮かんだ。
そしてその二千四十九年後、僕は「川」を渡った。
2004年03月03日(水)
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