diary/column “mayuge の視点
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【ことば】「おでん女」ヲ馬鹿ニスル莫レ

 以前、「養われたい女たち」という企画を立てことがあった。ヒントになったのは、週刊朝日誌上で行われていた、心理学者・小倉千加子さんとエッセイスト・酒井順子さんの対談だった。

 そう、二人は当時話題になっていた『結婚の条件』と『負け犬の遠吠え』、それぞれの著者である。週刊誌上を賑せた、あの「負け犬論争」の仕掛け人といっていいだろう。典型的な「負け犬」である僕の彼女などは、酒井さんの本を読んで「救われた」と感銘を受けていた。そこで僕は、もう一方の『結婚の条件』を改めて読んでみることにした。

 すると、とにかくすごい。現代の若い女性たちの心理を実に明快に言い当て、ズバズバと斬り込んでいくのである。男の側から「女ってこうだよなあ」と漠然と思っていたことが、ものの見事に言語化されていく。もう読んでいて気持ちがいいくらいだ。心理学者というのは、こうも心を見抜くものなのか。そしてこうも的確に言葉で表現できるものなのか。今度は僕の方が感銘を受けてしまった。

 感銘ついでに、そのいくつかの文章を紹介してみたい。

「男性が組織の中で『負け組』になりたくないように、女性もまた結婚で『負け組』になりたくないのだ。『負け組』とは、みすみす苦労を買いにいくような結婚をすることだ」

「女子学生の結婚相手に求める条件は、打算を隠蔽したものである。無私無欲でイノセントな部分を印象づけないと女性のジェンダーは評価されないから、打算はなんとしても隠しておかなねばならない。そこで状況はややこしくなってくる。モノ欲しそうにしないで、すべては『偶然の出会い』によって起こったようにしなければならない。合コンは友人に誘われて初めて来ましたとか、結婚情報サービス会社に登録するのは土壇場の選択肢で、そこまでして結婚したくないとかは、多くの女性が口にする」

「しかし男性もまたしたたかな値踏みを女性に対してしているのである。結婚とは、女性と男性が持つ資源の交換であり、自らの資源を棚に上げて、相手にばかり要求水準を高くしても、永遠に『適当な相手』は見つからない。自分の資源価値(市場価格)を、直視することは苦しい。大学生を対象にアンケートを取ると、女性が男性に求める最大の条件は『経済力』であり、男性が、容易には口にしないが本音のところで固執しているのは『美人』であることである。結婚とは『カネ』と『カオ』の交換であり、女性は自分の『カオ』を棚に上げて『カネ』を求め、男性は自分の『カネ』を棚に上げて『カオ』を求めている。誰かが本当のことを教えてやらねばならない」

(短大卒未婚女性にインタビュー。彼女たちの結婚観を聞いて……)

「そもそも短大の英文科や国文科に進学する女性は、入学時には明確な入学目的もキャリア計画も持たない。自分が在学する間に、同じような階層の友人たちと同調競争し、職業も一時就労型で、友人たちが退職すると同じように退職し、友人たちと同じような結婚を志向する。が、その結婚相手には自分が扶養されるのは当然で、専業主婦として友人に恥じない相手を見つけ、やさしい夫と可愛い赤ちゃんに囲まれた幸せな家庭を夢見ている」

「彼女たちが求める結婚相手の条件とは3Cと呼ばれる。まずcomfortable 直訳すれば『快適な』だが、意訳すると『十分な給料』である。二番目にcommunicative これも直訳すれば『理解しあえる』だが、真意は『階層が同じかちょっと上』というものである。(中略)最後はcooperative『協調的な』だが、本当は『家事をすすんでやってくれる』であった。専業主婦でありながら夫に家事の協力を当然のように要求する根拠は『自分は育児で大変だから』というものであった」

「高収入と家事への参加という要求に応えられる男性は実際いくらいるだろうか? 女性学の研究の結果では、男性で家事の分担をすすんでできるのは、非競争部門――公務員・教員――の男性でないと無理となっている」

「この『短大生パーソナリティ』は、現在短大の減少とともに、四大の中堅以下の大学の女子大生のパーソナリティにそのまま移行している」


(ドラマ『東京ラブストーリー』で有森也実が演じた関口さとみは、肝心なときにカンチ<織田裕二>におでんを作ってもっていく。しかし赤名リカ<鈴木保奈美>に自分を同一化していた世の女性たちは、「おでん女は女の敵だ」と思ってこのドラマを観ていたという。それに対して……)

「女の子は、一生に一度はおでんを作らない限り、男の子に選ばれない。肉じゃがでもいい。おでんか肉じゃがを作らなければ、社長夫人への道はない。女の子は自ら社長になれないのなら、関口さとみと同じことをするしか生きていく道はないのだ。なのに、おでんを作って上手に男に媚びる関口さとみの『女性性』が嫌いなのだ」

小倉千加子著 『結婚の条件』(朝日新聞社刊)より


 男性陣はうなずき、女性陣は憤っていることと思う(笑)。まだこの本を読んでいない人で、ここで興味をもった人がいたら、ぜひ本屋へ。

2004年05月22日(土)

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