闇鍋雑記帳
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1970年07月05日(日)

09.10

術後、数分ほど経ったでしょうか。
夫が病室に姿を見せました。
どうやら、わたくしが処置を受けている間に、到着したらしいです。
しばらく話をしていると、看護師さんが「赤ちゃんに会いますか?」と、聞きに来ました。

わたくしは腹を決めて、会うことにしました。
すると、看護師は、小さな箱を持ってきてくれました。
白い紙箱ですが、開けるとガーゼに覆われいて、ペチュニアの仲間の切り花が綺麗に飾られていました。
ガーゼを取ると、それは小さな赤ちゃんが横たわっていました。
まだ、皮膚も完全に出来てはいないのか、赤みのかかった肉色のゼリーで覆われているような艶があり、てらてらと光っていました。
目の辺りは黒く、頭蓋骨ももう出来ていました。
布団になっているガーゼをめくると、赤ちゃんの体が出てきていました。
折れそうな手足。まるでミニチュア人形を見ているようでした。
骨が透けて見える小さな小さな手には、もう爪が出来ていて、それは足も同じでした。
つんとした踵が、とても可愛くて、結構形が良かったです。
顔は横向きであまり見えなかったので、少し動かして見てみたら、小さな鼻の穴が少し歪んでついておりました。
目は閉じられていて、口は少し開いていましたが、笑っているようでした。
小さな生殖器も、その子が男の子だと言うことを示していました。

こんなに小さいのに、もう生きていないなんて。
こんなに可愛いのに、死んでしまったなんて。

頭の中で、ぐるぐるとそんな事ばかりが巡っていました。

涙が流れ、嗚咽が出そうなのを必死に堪えていたのですが、気づくと、夫も泣いていました。
二人でティッシュで鼻をかみまくり、我が子を眺めていました。
たぶん、端から見ると、こんなグロテスクなものをよく眺めていられると思うのでしょうが、我々にとっては、どんな姿でも、可愛い子供なのです。
この子を手放したくない・・・自分の中で、そんな思いがどんどんこみ上げて来るのを感じました。
ものすごく危険な思いです。
こうなる予感はしていたのです。
見てしまうと、情が湧くので、見てはいけない。
そう思ってはいたのですが、やはり我が子の姿を見ておかなくてはならない。
看護師も、見ないのか、見ないのかと、かなり怪訝そうにしていたのですが、見ると言ったときのあの安堵した顔。
いろんな思いが、怒濤のように押し寄せてきて、頭がまた真っ白になりました。


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