月の輪通信 日々の想い
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この間、アプコを後ろに載せて車で走っていたら、なにやらもぞもぞと怪しげな声。
カーラジオのボリュームを絞って、よ〜く聞いていると、アプコが鼻歌の様に抑揚をつけて、
「じゅげむじゅげむ、ごこうのすりきれ・・・」
とつぶやいている。
最近夕方にやっている子供番組で、毎日のように聞いているらしく、
「・・・ちょうきゅうめいのちょうすけ」
までよどみなく、舌っ足らずな発音で見事に覚えている。
「わ、アプコ、それ、なぁに?面白いね、もう一回言って。」
私が茶々をいれたら、独り言を聞かれて決まり悪かったのか、アプコはご機嫌が悪くなって黙 ってしまった。
アプコの好きなおままごと。
この頃は、ただ、ご飯を作って食べさせるだけではなくて、お人形さん達の家庭の事情や生活 環境も複雑になって、面白い。
一人遊びしているアプコの声を聞き耳をたてて聞いていると、思わずふきだしてしまうことがあ る。
「父さん早く帰ってきてくれたらいいのに・・・せっかくスパゲッティ、チンしたのにねぇ」
「○○ちゃん、早く鞄、かたづけてね。今日はお手紙ないの?」
・・・・どこかで聞いたことのあるセリフ。
あはは、アプコはよく聞いてるね。
「ほんとだ、アプコ。君のおかばん、まだ玄関におきっぱなしだよ。」
わたしが、ちょっと口をはさんだら、
「もう!オカアチャンは入ったらダメ。」
と、すごい勢いで居間の戸を閉められてしまった。
アプコが独り言を言う。
アプコが一人遊びをする。
アプコが一人でお絵かきをする。
幼児特有の集中力で、アプコはぐっと「一人の世界」に没入する。
がちゃがちゃざわめく兄弟も、家事に忙しいオカアチャンも乱入してこないアプコの世界。
その濃厚なファンタジーの時間に、アプコの幼い心は深く深く耕されているような気がする。
耳について離れないCMソングのように、
「じゅげむじゅげむ。」を繰り返すのは、お口の快感。
お人形さん達と作る家庭を切り盛りしていくのは、心の快感。
唇をかみしめて、好みのクレヨンで画用紙を埋めていくのは、目と手の快感。
幼いアプコは自分の快感に、ためらうことなく素直に没入する。
幼児のその豊かな快楽が、アプコの世界の一番太い柱となる。
「もう!オカアチャン、みないでよ!」
とっておきのお菓子のつまみ食いを見つかったかのように、アプコは決まりわるくて、すぐ怒 る。
「そりゃ、悪かったね。」
母は、大抵しっぽを巻いて退散するけど、ホントはちょっとのぞいてみたいんだよぅ。
小さなアプコの豊かな世界。
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