月の輪通信 日々の想い
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2003年06月13日(金) 雨降り

朝、雨。

「今日は車にする?」

期待を込めてアプコに聞くと、

「レインコート着て、歩いていく」

あ、そう。



いつもは雨が降ると、登園のバス停までは車でビューンといくことが多かったのだけれど、近頃
アプコは、レインコートに凝っている。

あちこちからお下がりでもらったレインコート。色もサイズもろいろ取りそろえて、雨の日のアプ
コは衣装持ちだ。

「今日はピンクのがいい。」

通園リュックの上から、大きめのレインコートを着込み、てるてるぼうずの様ないでたちのアプ
コはかわいい。

赤い長靴をはいて、黄色い傘をさして、ふらふらと歩き出す。

小さい園児用の傘も、幼いアプコには重たくて、まっすぐ歩く事さえおぼつかない。



「オカアチャン、カエルの葉っぱが濡れてるよ。」

アプコがいつも「カエルみたい」と指さすハート型のつやつやしたツタの葉っぱ。

雨に濡れると、本当にカエルみたい。

「『カエルのりんちゃん』うたってよ。」

アプコがお気に入りの幼児番組の歌を歌う。

水たまりという水たまりに、ばしゃばしゃ入る。

傘から落ちるしずくを一つ二つと数える。

水かさの増えた水路に小石を投げる。

うっとうしい雨の日もアプコはとても楽しそうだ。



考えてみると、上の子達が小さいときには、子供らと傘をさして外出する事はとても少なかっ
た。

今のように小さい子を「単品」で連れて歩く事は少なくて、たいがい一人か二人「おまけ」がつい
た。

傘をさしてる子どもの手はつなげないし、水たまりに飛び込む子を制することも難しい。

ごく短距離の外出でも「雨の日は車」が当たり前だった。

小さい子がアプコ一人になって、オカアチャンは幼い子どもと傘をさして歩く楽しみに気付い
た。

赤い長靴のがっぽがっぽと鳴る音も、道路に飛び出してきたアマガエルにびっくりすることも、
幼児だけが知っている雨の日のワクワク。

オカアチャンも童心に帰って、アマガエルの行方をアプコと目で負う。

通園の時間は、いつもの倍もかかりそうだが、心豊かに雨を楽しむ事が出来るようになった。



「オカアチャン、疲れた。」

あと少しでバス停と言うところで、アプコがギブアップ。

風の日に15分、傘を支えて歩くのはアプコにとって大仕事。

いつも手をつないで歩いているので、傘をさして一人で歩いているときにも、どんどん私に寄っ
てきて、なかなかまっすぐに歩けない。

「じゃ、ちょっと、休憩。オカアチャンの傘に一緒にはいろう。」

アプコの傘をたたみ、ふたりでひとつの傘をさす。

傘を渡すとアプコは、ぷらぷら手をふった。

「あーつかれた。」

しっかり傘の柄を握りしめてたアプコの手。

大人にとっては当たり前の事なのに、アプコにとっては『傘をさす』というのは、大変な仕事だっ
たのね。



「オカアチャンが濡れちゃうよ。」

アプコが私の手を引いた。

アプコと二人のあいあい傘。

ついついアプコをかばって、傘を傾ける。

「ワタシはレインコート着てるから大丈夫。」

アプコは私の傘を押し返す。

小さな傘を支えるだけでいっぱいいっぱいのアプコなのに、オカアチャンの反対側の肩が濡れ
ていることに気がつくようになった。



「やっぱりワタシ、傘をさす。」

バス停が見えるところまで来ると、アプコは自分の傘をうけとった。

アプコより一つ年下のKちゃんがおかあさんの傘に入って先を歩いている。

ここは、お姉さんぶって、一人で傘を差している所をみせなくっちゃ。

少し休憩して、元気の出たアプコ。

しっかり傘の柄を握りしめ、胸を張って歩いていく。

「すごいね、傘、上手になったよね。」

すかさずオカアチャンはアプコの優越感をくすぐる。



確かにアプコは大きくなった。

一人で傘をさしつづけられるようになるのも、まもなくだ。

アプコが「自分で傘をさす」ということが当たり前になっても、オカアチャンはアプコと雨の日を
楽しむことが出来るだろうか。

「雨か、うっとおしいなぁ。」

アプコが、そんな事を言えるようになったら、カエルの葉っぱも雨粒のダンスも見えなくなってし
まうのかもしれない。

だから、オカアチャンは雨の日を惜しむ。

アプコの幼さを惜しむように・・・




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