月の輪通信 日々の想い
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久しぶりに、みんな揃ったお休みだから、いつもより少し遠い図書館へ出掛ける。
お天気いまいち、お金も使いたくないって時には図書館の存在はとても有り難い。
図書館専用に布張りした段ボール箱をぶら下げていき、それぞれに借りたい本を箱の中に入 れていく。
オニイは、外国の読み物や雑学の本、ゲンは虫や折り紙の本、アユコはファンタジーやお料理 の本。
そしてアプコは表紙のイラストのかわいい本を内容も見ずにどんどん積み上げてくる。
ここの図書館は、一人あたり10冊、2週間も借りられるので、6枚のカードを持つ我が家では 最大60冊も、お持ち帰りが出来るのだ。
我が家はあまり本屋さんで本は買わないのだけれど、とりあえず家の中に手に取れる本を置 いておくのは大事と、せっせと図書館の本を借りている。
金曜の夜、男の子達を剣道に送って、迎えるまでの空き時間、私が夜間開館の図書館で一人 2,3冊ずつの読み物を借りて持ち帰る。
「通い箱」に入った本はいつも子ども達が出入りする居間に置きっぱなし。気が向いた子が読 んだり、誰も読まずにそのまま返却したり・・・
それでも、幼稚園児の絵本から、オニイの初歩の日本文学まで雑多に入った「本の箱」の存在 は、ずぼらな母のささやかな「読書指導」のつもりでいる。
たまに今日のように子ども達が自分で本を選ぶと、それぞれの子の興味の在処や好みの変化 が判って面白い。
一番読書家のオニイに、「そろそろこんなのも・・・」と芥川龍之介の短編をすすめたら、「あ、こ れ、読んだ」とあっさり返されてしまった。
アユコは来るべき夏休みにやるお料理の本を熱心に見ている。
そしていつも、虫の本を探してくるゲンは「今日はいいねん」と、何をすすめても借りようとしな い。実物のクワガタムシやカブトムシ探しに余念のないゲンにとっては、絵に描いた虫はしばら く関心外なのかもしれない。
アプコはあいかわらず、かわいい動物のイラストの赤ちゃん絵本を次々に積み上げている。
「いいよ、全部借りていこう。」
親の好みに合わなくても、気楽にどれでも持って帰ることもできる図書館は、やはり有り難い。
子供らはたくさんの本の中で、自分の好きな事、興味の方向を確認する。
一つの本を選ぶということは、現在の自分の中にある「面白いこと」「関心のあること」を耕す一 つのきっかけともなるようだ。
図書館を出て、すぐそばのクレープやさんになだれ込む。
前から気になっていて、立ち寄ることのなかった初めてのお店だ。
「僕はカレークレープ」
相変わらずオニイの選択は素早い。
「僕、かき氷のメロン。」
へそ曲がりのゲンは皆と違った線を狙う。
「アタシ、いちごのかき氷。」
ゲンに対抗意識を燃やすアプコ。
父さん母さんも、好みのクレープを選んで、さて、残るはアユコ。
「どうしよう。何でもいいんだけど、どれがいいかわかんない。」
無理もない。
クレープやさんの看板には、ベースになるクリーム、そこに加えるソース、さらにトッピングやオ プションの果物などが何種類も書いてある。
「好きな物、頼んでいいよ。」
といわれても、ホントにいろいろ悩んじゃう。
「どうしよう、何がいいかなぁ。」
楽しいはずのクレープ選びなのに、あんまり悩みすぎて、思わず涙が出て来ちゃう。
アユコはこういうの苦手なんだ。
「じゃ、おかあさんと一緒に選ぼうよ。カスタードクリームと生クリーム、どっちがいい?」
ちょっとした手助けで、アユコは好みのクレープを選ぶことが出来たのだけれど、こういうとき の決断が苦手なのは、アユコの弱点。
小さいときから、そうだった。
とっても欲しい物があるくせに、いろいろ考えすぎて身動きがとれなくなってしまう。
自分でもそれがよく分かっていて、あとでちょこっと落ち込んだりする。
自分の本当に欲しい物、自分の一番好きな物は、自分で決断して手を伸ばさなきゃ手に入ら ないよ。
母はその事を教えたくて、わざとアユコに決断を迫る場面を作るのだけれど・・・。
アユコが大きくなって、人生の大事な決断を迫られたとき、母はその場に居合わせて助け船を 出すことは出来ない。
「結婚したいの?じゃ、A君にする?それともB君?」なんて一緒に悩んであげられたらいいけ どね。
これから何度も何度も、大事な決断をしていく子ども達。
父も母もその決断に立ち会うことが出来なくなっていく。
子ども達が自分の人生を自分で選び取っていくとき、父や母が手助け出来ることはほんのわ ずかな事なのだ。
だからアユコ、クレープのトッピングを選ぶくらいなら、いくらでも手伝ってあげる。
そんなことでベソかかないでね。
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