月の輪通信 日々の想い
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2003年07月11日(金) |
阿修羅のごとく(?) |
オニイの剣道着がすっかり小さくなっていた。
誰かのお古をもらってきた白の胴着。
襟はすり切れ、袖も短くなって、それはそれで「貫禄」なのだけれど、そろそろ新しいのをかわ なくちゃ・・・と思っていた。
ここ数ヶ月、チビながらもようやくにょきにょきと背の伸びる時期にさしかかったのかなと思える オニイ。
体つきもすこしづつ、がっしりと中学生らしい力強さが感じられるようになってきた。
「おかあさん、いいものもらったよ。」
先週、稽古を終えたオニイが抱えて帰ってきたのは、大学生の先輩のお古の青い剣道着。
新品の時には濃紺だったはずだが、洗い晒されてすっかり「青」に変化した年代物だ。
「Mさんが昔使ってた剣道着だって!もらっちゃった!」
子ども達がいつも稽古に使う剣道着や防具類は、高価なこともあって「誰かのお古」「誰かに譲 ってもらったもの」が多い。
先輩は、成長して新しいものを新調すると、小さくて使えなくなったものを、適当なサイズの後 輩に譲り渡す。
2代目、3代目のお古もざらにあって、どこの誰だか判らない人の姓の縫い取りのある道具 を、ありがたく頂戴することもある。
それは、親が経済的に助かると言うだけではなくて、「○○先輩の剣道着を頂いた!」
「××先輩が大会で使った防具をもらった!」という付加価値が子ども達にとってはとてもとて も名誉な事なのらしい。
そういえば、面の下にかぶる日本手ぬぐい。
時折、持っていくのを忘れて、先生に余分の手ぬぐいをお借りして、「返さんでええ、お前にや る。」なんて言われたりしたら、洗い晒した先生の手ぬぐいを殊の外ありがたがって、「ここ一番 の試合の時には、これ!」なんて、「勝負手ぬぐい」として大事にとっておいたりしている。
はた目には、何度も何度も稽古の汗を吸って、洗濯を繰り返し、「もうお役ご免でもいいんじゃ ないの」というくらいくたびれていても、「殿からご下賜の宝刀」のごとく、有り難いものなのらし い。
今日、オニイは先輩の青い胴着をつけて稽古にでた。
いつもの白い胴着に比べ、紺の胴着はぴっと引き締まって見え、いつもよりすこーし強そうに 見える。
たまたま、稽古前の掃除がおわり、稽古開始の時間が迫っても、指導の先生の到着が間に合 わなくて、中一のオニイとT君が集まった子ども達の中で最年長になった。
「先生方がこられるまで、あんたたちが先輩よ。しっかり小学生達を指導しなさい。」
「えーっ!」といいつつ、二人はちょろちょろ走り回る小学生を並ばせ、いつものメニュー通りの 準備運動を始める。
M先輩の青い剣道着を初めてつけたオニイは勇気百倍。
大きな声で号令をかけ、浮ついたチビたちを統率して、ちょっとかっこいい。
「M先輩の胴着はどうだった?」
「うん、よかったわ、まるで、阿修羅がついたみたいだった。」
阿修羅とはまた大げさな・・・とは思ったけれど、実際M先輩は、声も大きくがっしりと獅子のよ うに荒々しい大学生。
稽古もとても厳しくて、幼い小中学生を相手にしても手を抜くということがない。
そのくせ、稽古がおわると小さい子達をくしゃくしゃにしてかわいがってくれるちょっとカッコイイ 先輩だ。
剣道の稽古を通じて、身近に「カッコイイ男」「強い大人」の具体的なイメージを作り上げていく 子ども達。
着古した剣道着や、洗い晒した手ぬぐいは少年のあこがれの匂いを含んで、ずっしりと重くな る。
まだまだやせっぽちで「阿修羅のごとく」とは言い難い12才のオニイ。
いまはまだ少し大きめのM先輩の剣道着が、ちょうど身にあうサイズになるころ、オニイはどん な男の子に育っているのだろう。
M先輩のがっしりたくましい稽古姿に、親もまた成長した息子の姿を重ねてほほえんでしまうの である。
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